授業レポート
集中講義「科学技術コミュニケーション演習」(後編)
2022年度
2022年度、夏学期期間中に実施された集中講義「科学技術コミュニケーション演習」(2022年度担当:八木絵香、水町衣里、鹿野祐介)の様子を2回に分けてレポートします。
2022年度は、9月28日(水)から30日(金)の3日間で実施されました。
授業の目的や、講義の前に実施したプレセッションの様子は、授業レポート 集中講義「科学技術コミュニケーション演習」(前編)をご覧ください。
この集中講義では、今まさに多様な専門家が議論を重ねている最中で、まだ「答え」が出ていない課題を扱います。2022年度は、顔認証・顔認識技術を取り上げました。具体的には、「顔認証・顔認識技術を利用したシステムを大学のキャンパスに導入する(架空の)ケース」についての討論を集中的に行いました。
集中講義本番の3日間は、グループワークが中心です。1グループは4~5人づつ、4グループに分かれて議論を進めました。
主なスケジュールは次の通り。
・1日目(9月28日)
オリエンテーションと自己紹介
顔認証・顔認識技術の「ユースケース案」の検討
その場合の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)について検討
・2日目(9月29日)
課題の再整理と専門家への質問の作成
専門家とのディスカッション
・3日目(9月30日)
ユースケースと考えられうる課題、その対応策を作成
顔認証・顔認識技術をめぐる諸課題について、自らの専門分野から貢献できることについての個人ワーク
以下、それぞれの日の詳細です。
・1日目(9月28日)
グループ内での自己紹介を終えたあとは、まず、それぞれが提出した事前課題(仮に、大学にこれらの技術を導入すると仮定した場合、どのような利用可能性があるか考えてみる、というもの)を共有し、グループで取り組むユースケースを検討していきます。
大学で過ごす一日を書き出して、どのようなシーンで技術が使えそうかを、ホワイトボードに書き出して、表にまとめながら検討しているグループもありました。
ある程度ユースケースが絞られてきたところで、グループで取り組もうとしているテーマを発表してもらいました。
「図書館の入館、学食での支払いだけでなく、栄養管理もできるのでは?」
「研究室での危険物管理や長時間滞在を防止、カンニング監視や授業の理解度の把握にも使えるのでは?」
など、さまざまなシーンでの活用法が検討されていました。
他のグループの学生からの質問などにも応答しつつ、ユースケースを固め、そのユースケースに対するELSIを抽出するところまでが1日目でした。
・2日目(9月29日)
2日目の午前中も、グループワークが続きます。
昨日に続いて、ユースケースを検討しながらをELSIを整理して、専門家に質問したいことをまとめていきます。
午後は5名のゲストをお招きしました。
大阪大学からは、新規技術のELSIについて詳しい岸本充生教授(データビリティフロンティア機構/社会技術共創研究センター)、井出和希特任准教授(感染症総合教育研究拠点/社会技術共創研究センター)の2名、そして、NECからは、顔認証・顔認識技術の社会実装に詳しい平田健二さん、法規制などに詳しい徳島大介さん、技術に詳しい田中孝宣さんの3名にご協力をいただきました。
徳島さんと田中さんには、オンラインでご参加いただき、それぞれ技術や法律に関わる質問にお答えいただきました。
まずはグループごとにユースケースと想定されるELSIについて発表し、その上で5名のゲストに質問をしていきました。認証の精度や方法、微表情の捉え方といった技術的な質問や、取得したデータの閲覧、管理の方法に関する質問など、さまざまなやりとりがありました。一つ、一つ疑問を確認することで、考えなければならない点が絞られていきます。
ゲストからは、
「取得するデータの内容や取得をどうやって決めるのか」といったデータの取得や消去についての課題、
顔認証・顔認識技術は使い方によってはかなり差別的になる可能性があるという課題、
「もっと便利に」「もっと健康に」という善意から始まるものは実は結構、厄介な問題を孕んでいることもあるという事例、
などもご紹介いただき、学生からは出ていなかった視点も提示していただきました。
ゲストからのコメントを踏まえながら、グループ内での議論を進めて2日目は終了しました。
・3日目(9月30日)
3日目はグループでの議論をまとめて発表します。
ユースケースを確定し、想定されるELSIを特定し、その対応策を提示することが、グループに課せられた課題です。
2日目のゲストとのやりとりも踏まえ、顔認証・顔認識技術を導入する工程全体を検討したり、同意の取得や管理の目的などについてさらに深めて検討したり。グループでの討議内容を全体で共有してグループワークは終了しました。
午後からは、個人ワークに取り組みました。
3日間の議論を踏まえ、顔認証・顔認識技術をめぐる諸課題について、自らの専門分野から貢献できることについて考えるというものです。
レポート提出の前に、それぞれが取り組もうと考えているテーマについて発表して3日間の集中講義は終了しました。
受講生にとっては、新規科学技術のELSIについてじっくり学ぶだけでなく、自らの専門性とは何かを考える3日間になったのではないかと思います。