学生授業レポート
離島のモビリティの現状とこれから
―隠岐フィールドワークから見えたモノ―
超域イノベーション博士課程プログラム準履修生向けの国内実習として、2023年3月24日(金)から3月27日(月)の4日間、隠岐諸島を訪問しました。
参加した学生がとりまとめたレポートを掲載します。
1.隠岐で見つけたもの
「人が、自然が、生きている」。
フィールドワークを振り返って、改めて感じたことです。
島根県の沖合いに位置する隠岐諸島(以下、隠岐)は、島後(隠岐の島町)・島前(西ノ島・中ノ島・知夫里島)の4つの有人離島と約180の小島からなる諸島です。都市部とは全く異なる環境で育まれた価値観は、私たちには大きな衝撃でした。
島後を行き渡る道路、島前-島後間を行き来するフェリー、本土へと繋がるフェリー・航空機。私たちから見ると一見、不便に思える交通もありました。しかし、島で暮らす人たちからお話を聞く中で感じ取ったのは、暮らすうえでは別に困ったことではないということ。隠岐で暮らす人には、日常のものとして生活に組み込まれているように見えました。
また、隠岐では多様な生活のあり方を見つけました。1つの職業にとらわれず、様々な取り組みを行っている方々にお会いしました。隠岐で暮らす方々の非常にいきいきとしたさまは、隠岐での充実した生活を感じさせました。
本活動レポートは、2023年3月24日(金)~27日(月)に実施された隠岐でのフィールドワークの内容をまとめた文書であり、「モビリティ」をキーワードに展開された島の方々との関わり合いの記録です。
2.隠岐をつなぐ交通
「移動のモビリティ」に関するフィールドワークの中で特に印象に残った点を2つ挙げます。
1つ目は、島前に住む住民が日常的に内航船を利用していることです。しかし、船は天候や海の状態によって運航するかどうかが決まる不確実性の高い移動手段であり、都市部で分刻みかつ確実に運行している鉄道を利用する私たちには衝撃的でした。実際、知夫里島・西ノ島に住む高校生は内航船の運航状況によって学校が休校になることがあります。
2つ目は、本土へと繋がるフェリー・航空機の便の少なさです。これは、本土と隠岐を移動する際のハードルとなっています。結果として、このハードルが他のハードル、つまり隠岐を観光する時のハードルや移住する際のハードルに繋がっています。私たちは、このフェリー・航空機の便が少ない原因は、現状、隠岐の観光者数や隠岐の人口の関係から、フェリー・航空機の利用者が多くないことであると考えました。実際、隠岐と本土を繋ぐ航空会社J-AIRの前田さんからは、燃料コストの高騰などの要因から、航空機の空席率を下げる必要があるとのお話がありました。
隠岐ジオパーク推進機構事務局長の野邉さんのお話では、現在隠岐を盛り上げるために観光に力を入れているということでした。これまでの隠岐での観光は、団体客による観光バス等を利用した観光ツアーがメインでしたが、近年は個人客が増えてきています。そのため、個人客の隠岐での移動手段を充実させることや個人客に隠岐の魅力を知ってもらうために、ガイドを充実させることを目指しているそうです。
隠岐は様々な観光資源を有しているため、隠岐の魅力を本土の人に知ってもらうことで観光客を増やす事ができ、ひいてはフェリー・航空機の便の数を増やすことができると考えます。
3.隠岐でのライフスタイル
これまでは、交通手段としてのモビリティを見てきましたが、ここからは人・職業の移動というモビリティに注目してみます。
人の移動という観点では、隠岐は自然豊かであり、人と人との繋がりが非常に強固であるために、UIターン者が多くなっています。今回のフィールドワークにおいては、一度本土での生活を経験した上で隠岐での魅力を再確認し、隠岐に帰ってきた人や、隠岐に観光として訪れた際に隠岐の魅力に惹きつけられ、隠岐での定住を決めた人など、たくさんのUIターン者と出会うことができました。これも、隠岐の魅力だと感じました。
職業の移動という観点では、隠岐には、1つの職業にとらわれずに生活を営んでいる方が多いことに気づきました。焼火神社の宮司である松浦さんは、西ノ島町観光協会会長や図書館館長を務めるに留まらず、隠岐観光のアプリの作成や島前高校の改革を提唱するなど、西ノ島やそこに住む人々に関わる様々な物事に取り組んでいました。黒曜石の加工を担う八幡さんは、歴史や地生態学に関して長年独自に研究を続けており、現存の概念では説明不可能な隠岐の自然や文化に関して追究しています。
私はこれまで、仕事とプライベートは切り離して考えており、仕事はお金を稼ぐための手段であると捉えていました。一方、今回の演習で出会った方々は、仕事とプライベートの距離が近く、仕事はその時々の生活の必要に応じて営まれているように見受けられました。また、隠岐での生活には人との繋がりが非常に重んじられているような印象を受けました。今回の演習を通して、日本国内においても様々な生き方の選択肢があるということに気付かされ、自分が身を置いてる環境にとらわれずにその可能性について考える非常によい機会となりました。
おわりに
隠岐のモビリティには2つの顔が見えてきました。観光のボトルネックとなっている交通というモビリティ。多様性、柔軟性を無理なく受け入れるライフスタイルのモビリティ。これらのモビリティは問題のようであり、特徴のようでもあります。
隠岐の魅力は島民性。人の温かさや、人が自然の一部であるということに気づくことができる場所です。都市での生活とは異なる、人と人が繋がるライフスタイルがそこにはありました。
本フィールドワークに際して関わって下さった皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
フィールドワークの様子
1日目
J-AIRの整備場見学・隠岐-伊丹便の飛行機についてお話を伺う(左上)
飛行機の前で集合写真を一枚(右上)
隠岐自然館にて隠岐諸島の成り立ち・文化を知る(左下)
隠岐で採れた新鮮な海鮮料理(右下)
2日目
焼火神社の宮司である松浦さんからお話を伺う(左上)
隠岐汽船が運航するフェリー「くにが」(右上)
人気の観光スポットの1つ「摩天崖」に圧倒される(左下)
地域の人との交流会の様子(右下)
3日目
ホテル海音里でサザエ丼を食らう(左上)
八幡黒曜石店の八幡さんから隠岐の歴史についてお話を伺う(右上)
隠岐に移住してきた天野さんから、移住に至るまでの経緯、隠岐で暮らすことの歓びについて教えていただく(左下)
隠岐のクラフトビール製造を企画する水間さんと意見交換会(右下)
書き手:
杉原 七海(大阪大学大学院 医学系研究科)
西垣 紘汰(大阪大学大学院 工学研究科)
大江 龍太郎(大阪大学大学院 人間科学研究科)
主催・協力:
主催:大阪大学超域イノベーション博士課程プログラム
協力:大阪大学社会ソリューション・イニシアティブ
引率スタッフ:
山崎 吾郎(大阪大学COデザインセンター 教授)
今井 貴代子(大阪大学社会ソリューションイニシアティブ 特任助教)
島田 広之(大阪大学社会ソリューションイニシアティブ 特任研究員)
田尾 俊輔(大阪大学大学院 人文学研究科/大阪大学超域イノベーション博士課程プログラム7期生)
田中 翔(大阪大学COデザインセンター 特任研究員)