大阪大学新任教員研修 レポート
オンライン教材をつかった研究倫理教授法入門
担当:池田 光穂 教授
2021年度FDプログラムとして、COデザインセンターでは2021年6月9日「オンライン教材をつかった研究倫理教授法入門」を行いました。
<開催概要>
- 研修題目:オンライン教材をつかった研究倫理教授法入門
- 担当:池田 光穂 教授
- 開講日時:2021年6月9日(水)11:30〜13:30
- 実施形態:オンライン研修
【講師からのメッセージ】
私は過去10年間にわたりウェブページで研究倫理入門という情報提供をしており、他大学から講師の依頼が毎年あり、本学の大学院でも開講したり、英語版の集中講義を他大学で実践してきました。その間の経緯をお話しして、簡単なワークショップを開催し、大阪大学の多くの教員が学部生向けに最低開講できるだけの履修プログラムの作り方について伝授します。
今回は、受講生の方の声を中心に研修の様子をレポートします。
研修の最初は、グループに分かれて、研究倫理教育に関しての経験や問題意識を参加者同志で共有しました。参加者のほぼ全員が研究倫理教育を受けた経験がありました。研究室で学生や研究員等に対し研究倫理教育を行う立場にいるという方や、所属部署が学内の研究倫理教育を推進する役割を担っている方も参加しており、それぞれの立場からの気づきの共有や問題提起がなされました。
<研究倫理教育を受ける立場として>
・研究倫理に関する研修は、研究倫理について知らなかったこと、気づかなかったことを知る機会になる。
・毎年同じ内容の研修を受けることで、研究倫理についての知識を復習する機会になっている。
・定期的な研修は、研究不正に対して身を引き締めるという点で有意義だと思う。
・研修で紹介されている研究不正の事例は自分自身の身の回りであまり見聞きしたことがない事例なので、別の世界の話のよう感じてしまう。
・テキストを読んだり、講義を聴いたりする形式の研修が多く、どうしても受け身になってしまう。
・このFD研修のように、研究不正について率直に相談できたり、議論できたりする場があれば良い。
・研究不正に対する具体的な対応策をできるだけ多く知りたい。
・研究倫理は時代によって変化するので、リアルタイムで更新・共有できるシステムがあると良い。
・どうして研究不正をしようとする人がいるのか、なぜそんなことをしようとするのか、その思考が理解できない。実際に研究不正をしてしまった人に、なぜそんなことをしたのか聞いてみたい。
<研究倫理教育を行う立場として>
・計算ミスのような悪意のないミスが研究不正につながる可能性があるかもしれない。どう教育すれば良いかを知りたい。
・出身国によって研究倫理に対する考え方や教育が異なるので、その違いを理解した上で教育できたら良いが、非常に難しい。
・どうしてもマニュアルに頼ってしまうところがある。それを実際に行動に反映するとき、人によって認識が異なる場合がある。構成員の認識を統一するのが難しい。
・論文を書くことに慣れてない学生たちが卒論や修論を書く際、本来は細かく指導すべきなのだが、なかなか難しい現状がある。
<研究倫理教育を推進する立場として>
・今回皆さんの生の声を聞くことができ、非常によかった。学内にはさまざまな事例の蓄積があるが、それが研究者の皆さんにうまくフィードバックされていないことがわかった。より良いフィードバックの仕方を考えていかなければならない。
・文科省から、研究インテグリティを強化するようにという要請が出ている。研究者は今後一層、さまざまな面で気をつけなければいけない点が増える。研究者が過不足無く研究倫理について学び、教育できる体制を大学内でも整えていきたい。
以上のような様々な立場からの話を受け、池田教授から以下のようなコメントがありました。
「研究倫理は、身体化することが重要。研究不正を防ぐためのルールを決めればよい、という単純なことではありません。失敗と不正は紙一重であり、正しく行うことができないということと正しく行わないということにはそれほど大きな違いはない、と考えるべきです。それにはまず、身体の動かし方から倫理を育むことです。正しい手順で実験を行う。正しい手順で書類を確認する。その上で、エラーが起きたら行動レベルで原因追求する。そのような活動を研究室に導入すれば、体の動かし方から倫理を育むことができると考えています。」
研修の最後には、受講生の方から以下のような感想がありました。
・事務の方との日々のコミュニケーションが非常に重要。事務の方とのコミュニケーションが良いと、「それは不正なる可能性がありますよ」と警告してもらえる。お互いの立場でひとつひとつ気を付けていくことが必要だと感じた。
・自分自身が研究者として教育を受けることと、学生たちに教育を行うことは大きく違うと感じている。あまり意識・関心が高くない学生に対しては、噛み砕いて説明していく工夫が必要だと思った。
・研究倫理は時代によって変化するので、それを前提に学ぶ必要がある。その点でも、理想的な研究倫理教育とは、自発的に知識を吸収したり、調べたりしようとする姿勢を育てることだと思った。今回のこの研修ではそれらについて考えることができ有意義だった。
・研究不正を身近なこととして認識することが大切だと感じた。自分は不正に関わってないと思っていても、知らないところで関わってしまった事例が実際に存在することを知る必要がある。
・私自身、グループでの研究が多くなってきており、なるべく性善説で研究できる環境にしたいと考えている。研究倫理教育においては、研究不正をしてはいけない、という視点だけでなく、不正に巻き込まれないためどうしたらよいか、という視点も重要だと思った。
・研究不正を防ぐためには、個人の感覚や意識だけは防げないところがある。研究不正を構造的に防ぐための仕組みづくりが重要だと思った。「これ、本当にあっている?」という言葉が自然と口に出せるような研究環境作りをしていきたい。
COデザインセンターでは、今後もこのような研修を積極的に行っていきたいと考えています。