COデザインシンポジウム レポート
地域ではぐくむ子どもと未来〜コロナ禍から見えたものとこれから
新型コロナウイルスの感染拡大により、社会的に脆弱な人たちへの影響が大きくなっています。子どもにとっても緊急事態宣言により学校が休校となり、子ども支援にも制限がかかるなど大きな影響があったと考えられます。
今回のシンポジウムはオンラインで開催され、200名以上の方にご参加いただきました。5名の話題提供者からコロナ禍の影響や現状などについて情報を共有していただき、全体ディスカッションでは「地域ではぐくむ子どもと未来」のために、行政や大学、子ども食堂などが果たすべき役割、期待することなどについて語り合いました。
開催概要
- 開催日:2021年2月23日(火) 13:00〜16:30
- 開催方法:オンライン
- プログラム:
あいさつ:池田 光穂(大阪大学COデザインセンター長)
基調講演「子どもの貧困と食支援」阿部 彩(東京都立大学人文社会学部教授)
話題提供1「コロナ禍における子ども食堂の"支援"について」釜池 雄高(NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事/こども食堂ネットワーク事務局)
話題提供2「子ども食堂調査の報告」松本 文子(大阪大学COデザインセンター特任助教)
話題提供3「子ども食堂からみえる子どもと地域」浅井 るり子(光明台幼稚園延長・てらこやハッピー主催)
話題提供4「多文化の子どもの家族について:子ども食堂との関わりを求めて」松本 みなみ・中井 知佳(大阪大学大学院言語文化研究科博士前期課程)
全体ディスカッション:司会:上須 道徳(大阪大学COデザインセンター特任准教授)
閉会のあいさつ:堂目 卓生(大阪大学社会ソリューションイニシアティブ長)- 主催:大阪大学COデザインセンター
- 共催:大阪大学社会ソリューションイニシアティブ、大阪大学工学研究科附属フューチャーイノベーションセンター、一般社団法人北の風・南の雲
今回のレポートでは、松本 みなみ さん、中井 知佳 さんがシンポジウムで発表した内容について、報告します。
話題提供「多文化の子どもと家族について:子ども食堂との関わりを求めて」
松本 みなみ、中井 知佳(大阪大学大学院言語文化研究科博士前期課程)
今回は、私たちが活動している地域日本語教室についてお話ししたいと思います。本シンポジウムで私たちが地域日本語教室をとりあげるのは、子ども食堂との間で、社会で果たしている役割やコロナ禍で置かれた状況、また、今後の可能性においても共通点があるのではないかと考えたためです。まず、私たちが活動している二つの地域日本語教室の現状についてお話したあと、地域日本語教室と子ども食堂の両者を含めた今後の在り方について考えていきたいと思います。
● 地域日本語教室とは?
地域日本語教室の主な活動は、日本語を母語としない方への学習支援です。利用者には、外国人労働者、技能実習生、家族滞在の方やその子どもたちなどがいます。教室を運営しているのは主にボランティアです。国内の日本語学習者約28万人の35%にあたる約10万人の方が地域日本語教室で学んでいます。
教室では、日本語学習、教科学習支援の場だけではなく、生活情報、居場所、そして、社会参加の機会などを提供しており、幅広く活動が行われています。
● 地域日本語教室の紹介・コロナ禍での現状と取り組み
はじめに、私たちがそれぞれ活動している2つの地域日本語教室の概要とコロナ禍における現状と取り組みについてお話します。
■ こくさいひろば芦屋
活動目的:日本語を母語としない子どもたちに対する日本語・教科学習の機会の提供を通し、地域における多文化共生を目指す。
コロナ禍におけるこくさいひろば芦屋の現状については、2020年2月末の休校措置から7月まで対面活動を全面的に休止しており、その間、個別でのオンライン学習を行っていました。7月以降は対面活動を再開し、可能な範囲でのイベントも行っていましたが、12月から再び対面活動の自粛を行っています。現在(第二次緊急事態宣言時)は、高校受験を控えた中学3年生のみ受験に向けた対面での学習活動を行っており、それ以外の学習者は、基本的にオンラインで学習を継続しています。しかし、オンライン学習への不慣れさや、家庭でWi-Fi環境が整っていないということから、オンライン学習が開始できない人たちや学習を継続できない人たちもいました。また、子どもたちの中には、家庭で学習する習慣がない国の出身の子どももいるため、学校以外で唯一勉強する場所となっている日本語教室の活動再開を望む声が上がっています。
■ NPO東大阪日本語教室
活動理念:外国籍の住民に対して日本語学習機会を提供し、日本語学習を手助けする。また、国際交流に貢献する。NPOとして自主的な活動を推進する。
コロナ禍におけるNPO東大阪日本語教室での大人の学習者の現状についてご報告します。学習者のなかには、残業時間が減って生活が普段以上に苦しくなり、学習どころではないといった方もたくさんいます。また、ボランティアが久しぶりに学習者に会うと、げっそりとやせ細っていていたという話も聞きます。経済的になかなかきちんとした食事が取れず健康状態が悪化する場合もあるようです。
運営面については、対面での支援からZoomでの支援への切り替えがそれほど有効でないということが見えてきました。NPO東大阪日本語教室では、Zoomでのオンライン教室の実施、対面とZoomの両方を取り入れたハイブリッド教室の運営などを行ってきましたが、学習者にはWi-Fiが自宅にないといった方も多く、オンライン学習では学習の継続を保障できない場合もあります。
また、NPO東大阪日本語教室では、第一次緊急事態宣言時下でアンケートを実施し、学習者の方の健康状態、仕事の変化、また教室に望むことなどを調査しました。この調査に基づき、要望のあった緊急事態宣言時の情報発信や、教材の発信を教室のブログで行いました。やさしい日本語を使い、三密ってなんだろうといったコロナ予防の方法、特別定額給付金の申請方法などの情報を発信しました。
● 地域日本語教室にできること
このような点をふまえ、地域日本語教室にできることは何か、私たちの意見をお話ししたいと思います。
まず、団体活動としてできることを四つ挙げます。
一つ目に、同じ地域の住民として、多文化の人たちが置かれている状況を把握するということです。地域日本語教室の存在は、多文化の人たちのセーフティーネットになっていると考えられます。多文化の人がどういった状況に置かれているのか同じ地域住民として知るということが、サポートを必要としている人を取りこぼさないということにつながるのではないかと思います。
二つ目に、有益な情報の提供です。多文化の人たちは、日本語の面でも文化背景的な面でも、日本社会で苦労する面が多いと言えます。この情報を得ていればうまくできたのに、ということを少しでも減らせるように、必要としている情報を提供することが重要だと考えます。同じ地域に住む住民だからこそ提供できる情報があると思います。
三つ目に、こういった活動においては、多文化の人たちが社会での活動に関わることを歓迎する姿勢を地域の人たちが率先して取ることが大切だと思います。
四つ目に、子どもたちに対するサポートの面では、地域日本語教室は学校ではできない学びを提供することも挙げられます。こくさいひろば芦屋では、地域に住む仕事のプロフェッショナルを教室に呼び、高校受験を控えた子どもと対談する機会をつくりました。子どもたちの興味関心を引き出し、学習意欲を育むきっかけをつくり出すチャンスがあるのも、地域日本語教室の強みだと言えると思います。
また、通常の活動外でできることについては、地域内での声掛けが挙げられると思います。こくさいひろば芦屋では、休校期間中であっても、地域内でボランティアが子どもたちに声を掛け、近況を聞いていました。これは地域の団体だからこそできることだと思います。
そして、団体の活動に参加するにあたっては、自分の住む地域内での活動に参加することが大切だということです。コロナ禍において自宅でリモート授業や仕事をする人が増え、地域活動に参加しやすくなってきていると思います。こくさいひろば芦屋でも、できる限り自分の住む地域内での参加をお勧めしています。コミュニティの育成という点でも、そのほうが活動を継続しやすくなります。
● 子ども食堂と地域日本語教室の重なり
以上より、子ども食堂と地域日本語教室の共通する部分についてお話ししたいと思います。
地域社会の中で、子ども食堂や地域日本語教室は、地域交流をメインとしている団体もあれば、具体的な支援をメインとしている団体もあります。また、二つの要素を持ち合わせた団体もあり、社会で果たしている役割に似通った点があります。
さらに、地域社会の中には、子ども食堂や地域日本語教室以外にも市民団体やNPO団体などがあり、交流や支援、また、さまざまなその他の目的を持って活動している団体があります。地域の学校、大学、そして行政などもあります。私たちは、このような地域社会にあるさまざまな団体や組織が、他の団体を巻き込みながら活動を展開していくことが重要だと考えます。お互いに刺激を与えながらコラボレーションしていくことで、地域社会内の団体間の活動が活発になり、活動の発展だけでなく、地域の中でその存在が見えにくい人たちに寄り添い、その人たちが必要としているサポートが届けられるようになるのではないのかと考えます。
発表は以上です。ありがとうございました。
* 所属、団体名などは、2021年2月23日現在のもの
(編集担当:森川優子 COデザインセンター特任研究員)