授業レポート
冬学期「リテラシー(理工系人材に求められるCOデザイン力)」
COデザインセンター開講科目<リテラシー>
COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。
今回は、2020年度冬学期に開講された「リテラシー(理工系人材に求められるCOデザイン力)」(2020年度担当:松浦博一、松繁寿和)の様子をレポートします。
本授業では「理工系学部・大学院を卒業した者が社会に貢献するにはどのような能力が求められるか」をテーマに、毎回社会の第一線で活躍中の方々をゲストスピーカーとしてお招きし、お話いただきました。
■ 2021年1月19日
ゲストスピーカー:森田 哲司 さん(大阪ガスマーケティング株式会社 取締役 商品技術開発部長)
阪大工学研究科ご出身の森田さんは、中学、高校時代はともに卓球部ではエースでキャプテンという、文武両道の少年時代だったそうです。大阪大学を卒業したあと、大阪ガスに入社しました。
あるとき、上司から「あの仕事、どうなっている?」とたずねられました。森田さんは、「それについては●●さんがやってくれています」とこたえました。すると、その上司から非常に厳しく怒られたそうです。「そういうことを聞いているのではない。あの仕事はどうなっているのかを聞いている。」森田さんは、いまにして、その上司が「森田さん自身が」その仕事に対してどう考えているのかをたずねていたとわかる、と話します。
「その時、自分のそういう姿勢を変えなければいけない、と思いました。自分の考えを持たなかったらまずい、と。何でも『言われたからやる』ということではダメだ、と思いました。どんなときでも一つでも成長したいと、気付いたことは何でもノートに書きとめるようになりました。」
一通り仕事ができるようになってくると、自信が芽生えるのと同時に、仕事の難しさも分かってきたと話す森田さん。
「営業部からは『早く新製品を出してくれ』『もっとコストダウンしてほしい』『もっとコンパクトにしてほしい』と言われます。一方、メンテナンス部からは『故障しない製品にしてくれ』『あまりコンパクトな製品はメンテナンスが難しい』と言われるのです。まったく逆の意見を同時に言われるのですよね。でも、どちらの意見も正しいのです。営業の方はもっと売りたい。メンテナンスの方は故障をなくしたい。
物事は、見る角度によって見え方が違う。こっちから見たらこうだけど、こっちから見たら全然違う形に見える。どちらも正しいのです。いろいろな視点からものを見る姿勢を身に付ける、視野を広げることが必要だと、私にもだんだんとわかってきました。世の中にあるさまざまな問題は、それぞれいろいろな角度から見て、バランスの良いところで判断をしていかないといけないのです。
上司の言うことも、単に聞くのではなくて、上司の言う『正しいこと』を聞かないといけない。上司が間違っていることもある。そういう時に正しい判断ができるように自分自身の意見をしっかり持たないといけない。そのためにはいろいろな視点から物事を見、考える習慣をつけないといけない、と思っています。」
「正直に言うと、入社した当初は仕事が楽しくはなかった」と話す森田さん。でも今は「何でも面白い」と話します。「継続は力なり、だと思います。社会ではいろいろな人がいろいろな仕事をしていて、その仕事全てに価値があるのです。」という言葉で、この講義をしめくくりました。
<受講生のみなさんに伝えたいこと>
・継続は力なり
・コミュニケーション能力は大事
・上司の言うことを聞くのではなく、上司の言う正しい事を聞く
・自分の意見をしっかり持つ
・いろんな視点から物事を見る、考える習慣をつける
・人の短所でなく、長所を見る
・常に前向きに!
■ 2021年1月26日
ゲストスピーカー:北野 正和 さん(ユニチカ株式会社 常務執行役員 技術開発本部長)
阪大基礎工学研究科ご出身の北野さんは、長年工場で生産現場に関わり、夜勤も含めた三交代勤務も経験したそうです。その後、工場長として、より良いものをよりつくりやすくするため、日々業務改善に取り組んできました。
「ある日、工場のスタッフに『あなたの仕事は何ですか』とたずねると、『ボビンに糸を巻くことです』というこたえが返ってきました。『あなたはどんな作業をしているのですか』という質問に対するこたえだったら分かるのですが、『私の仕事は糸を巻くことです』ということだったら、あまりやりがいというのを感じられないでしょう。私も工場で三交代勤務をしていたとき、自分が今作業しているものが最終的にどうなるのかがよく分からない、ということがありました。それではやる気が高まらない。そこで私は、今工場でつくっているものはどういう製品なのか、その製品はどのお客さまのためにつくられているのか、どのくらいの価格で販売されている製品なのか、ということを工場のスタッフみんなが見えるところに示すようにしました。そうすると、みんなの目の色が変わり、工場の雰囲気も活気がでてきました。」
工場長として、約1000人の部下をかかえていたという北野さん。「自分一人でできることには限界がある」と話します。
「周りの人に協力してもらわないといけない。そういうとき、教えるのではなく、その人自身が気付くように導くことが大事です。自分自身のことを考えても、人から教えられたものはだいたい忘れてしまいます。しかし、自ら気付いたこと、体得したものは忘れないですし、自ら気付く、発見する喜びを感じたら、人はどんどん自分からやろうとします。」
「組織にはいろいろな人が必要です。それぞれの業務に必要な能力があります。そして、人にはそれぞれ得意分野があります。それぞれの業務に適した人がいるはずで、そういう人を見いだしていくことが大切です。部下の特徴を把握して、伸ばしたり、生かしたり、あるいはモチベーションを上げたり、わくわくさせたり、ということが大切ですね。」
そのために、誰がどんなところが強いのか、ひとりひとりをきちんと見ることが大切だと、北野さんは言います。
「三現主義という言葉があるのですが、大切なのは『現場に行く』こと。現場に行くと、この人は汗流すのが好きだな、とか、この人は客観的にものを見る人だな、とか、ひとりひとりのことも分かってきます。よく見ていると、その人がどういうところに向いているかがわかりますし、その人のことを一番近くで理解しているその人の上司と話をすることで理解を深めることもできます。」
北野さんは、最後に、受講生にこのようなメッセージを送りました。
「大阪大学は総合大学なので、せっかくですからいろいろな人と話して、いろいろなものの見方を知ることが大切ですね。ぜひ、学生時代にいろいろな人と関わってもらえたらと思います。」
(書き手:森川優子 COデザインセンター特任研究員)