大阪大学
集中講義「科学技術コミュニケーション演習」
CO

STUDY

授業レポート

2020年10月11日(日) 公開

授業レポート
集中講義「科学技術コミュニケーション演習」
COデザインセンター開講科目<横断術>

COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。

2020年度、集中講義「横断術」として開講された「科学技術コミュニケーション演習」(2020年度担当:八木絵香、工藤充、水町衣里)の様子をレポートします。

COデザインセンターが開講している集中講義「科学技術コミュニケーション演習」、2020年度は8月26日から28日の3日間に行われました。

例年は、受講生がひとところに集って、3日間みっちりと"密"な議論を重ねる講義なのですが、2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、全ての行程をオンラインで実施しました。

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この講義は、多様な研究科の大学院生が受講する講義です(*1)。異なる分野を専門とする者同士、また専門家と専門家以外の人々(政策決定者・報道機関・一般市民等)とのコミュニケーションの困難さについて考え、それらに向き合うためのコミュニケーションの姿勢や作法を学ぶことを目標としています。

*1)「科学技術コミュニケーション演習」は、副専攻プログラム「公共圏における科学技術政策」の履修登録生にとっては必修科目です。このプログラムに登録していない大学院生も受講することができます。

授業の3日間を使って、特定の科学技術をめぐる社会問題についての討論を集中的に行い、課題となる科学技術と社会のかかわりについて理解しつつ、自らの専門性をふまえた考察および応答ができるようになることを目指す、というものです。

テーマは例年、今まさに多様な専門家が議論を重ねている最中で、まだ「答え」が出ていない課題を扱っています(*2)。2020年度は「COVID-19をめぐる科学的助言のあり方」を取り上げました。

*2)過去には、以下のようなテーマを扱いました。「BSE事件に伴って生じたアメリカ産牛肉輸入停止を解除するための条件とは何か」、「原子力発電所から生じる高レベル放射性廃棄物の地層処分の是非について」、「原子力発電所の再稼働に必要な条件について」、「地球温暖化問題に関する市民参加のあり方について」「高レベル放射性廃棄物の地層処分」など。

まず、COVID-19以前に、科学的(専門的)助言のあり方が課題となった事例についての講義を行い、それらの過去事例から学べること、そして、COVID-19をめぐる問題に活かせることなどを議論するという流れでした。

3日間のスケジュールは次の通りです。主に、グループワークを中心に進められました。


・1日目
オリエンテーションと自己紹介@Zoom
講義:過去事例に学ぶ@Zoomウェビナー

・2日目
事前課題としてあらかじめ提示されていた「問1」に関する個人の見解の作成
「問1」に関するグループディスカッション@Zoom
発表・全体ディスカッション@Zoom
グループディスカッション@Zoom

・3日目
「問2」に関するグループもしくは個人の作業
「問2」に関するグループディスカッション@Zoom
発表・全体ディスカッション@Zoom
全体ふりかえりと最終レポート課題の説明@Zoom


以下、各コーナーの詳細です。

1日目

八木絵香 教授より、この授業の目的や今年度扱うテーマについて、また、3日間のスケジュールについて説明がありました。その後は、受講生や講師の自己紹介の時間。全てオンラインで実施するからこそ、議論しやすい環境を整えるべく、自己紹介の時間をたっぷりとって丁寧に進めました。
 
1日目の午後は、科学的助言が注目された過去事例について学ぶ時間です。それぞれの事例に詳しい専門家による講義をウェビナー形式で行いました。

講義1「ラクイラ地震と科学的助言」:大木聖子さん(慶應義塾大学環境情報学部)
講義2「BSE問題と科学的助言」:小林傳司さん(大阪大学COデザインセンター)
講義3「福島第一原子力発電所事故と科学的助言」:寿楽浩太さん(東京電機大学工学部)

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13時から18時前まで長丁場でしたが、それぞれ興味深いお話で、あっという間に時間が過ぎていきました。ZoomウェビナーのQ&A欄には、学生からの質問がたくさん寄せられ、質疑応答の時間も盛り上がりました。

2日目

午前中は、個人作業の時間です。1日目の講義の内容を踏まえつつ、事前に提示されていた「問1」に関する個人の見解をまとめます。

「問1」(抜粋):
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(「専門家会議」)は、2/24から5/29までの期間、文章を発表し記者会見を行うと同時に、コロナ専門家有志の会ウェブサイト等を通じて、積極的な情報発信を行ってきました。
この専門家達の一連の行動を、あなたは肯定的に評価しますか、否定的に評価しますか。どちらかの評価を選んだ上で、その論拠について示しなさい。

午後は、グループでのディスカッションの時間です。各自が提出した事前課題を持ち寄って、「問1」に関するグループとしての見解をまとめます。Zoomのブレイクアウトルームの機能を利用して、グループディスカションを実施していたのですが、時折、講師もそのブレイクアウトルームに入り込んで途中経過を聞かせてもらいました。

発表・全体ディスカッションの時間では、メインセッションに集合して、グループごとに議論の内容を発表し、それを全体で共有しました。他のグループメンバーからのコメントや講師からのコメントを踏まえつつ、「問2」に向けた作戦会議をするというのが、2日目の夕方の時間でした。

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3日目

最終日の午前中は、グループごとに進め方が異なっていました。(オンラインで)集まって議論をするグループもあれば、情報収集の分担を決めて個人で作業をするグループも。

この日取り組む「問2」は、以下の通りです。

「問2」(抜粋):
問1をうけて、2020年2月段階に時間を巻き戻して専門家会議を設計すると仮定した場合、その専門家会議は、どのようなメンバーで構成されるべきでしょうか。
また、その場合の専門家会議のあり方(政治的判断へのコミットの仕方・国民への情報発信のあり方等)は、どうあるべきでしょうか。

午後は、15時からの最終発表に向けて、グループでの議論を進めました。対面で実施する授業と違って、隣のグループの気配が全く感じられない中で議論をするのは、少し寂しい感じもあるのですが、グループごとに、Googleドキュメントを割り振って、そこに議論の足跡を残しつつ進めていきました。

最終発表の時間には、ゲストとして、田中幹人さん(早稲田大学政治経済学術院)をお招きしました。田中さんは、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議のサポートメンバーであり、コロナ専門家有志の会の発起人の一人でもあるという方です。また、現在、新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリー・ボードメンバーもつとめていらっしゃいます。加えて、初日に講義をお願いした大木聖子さん(慶應義塾大学環境情報学部)と寿楽浩太さん(東京電機大学工学部)にも再びご参加いただきました。

実際に、政府との距離感に日々悩みながら、活動をされている方から、いろいろなコメントを聞くことができた学生たちからは「政府および委員会内のリアルな雰囲気を理解でき、とても面白かったです。(理学研究科)」、また「リスクアセスメント(専門家の分析助言)とリスクマネジメント(政府の提言)の線引きの難しさなど様々な視点を得ることができました。(薬学研究科)」という感想が寄せられました。

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3日間にわたる議論を終えた学生は、「COVID-19をめぐる諸問題について、自らの専門性を省みた上で、自らの専門分野が寄与できることは何か」というテーマで最終レポートをまとめました。自分とは異なる専門性をもったメンバーとともに、科学的助言をテーマにした3日間の議論を経験した上で、自分の専門とは何かを振り返るよい機会になったのではないでしょうか。


(書き手:水町衣里 社会技術共創研究センター特任講師)

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