授業レポート
集中講義「協働術D(共創型社会開発論)」@オンライン
COデザインセンター開講科目<協働術>
今年度、大阪大学は、春学期・夏学期期間に行われる授業については、原則メディア授業で実施をしています。COデザインセンターでも、それぞれ工夫を凝らした授業が開講されています。
その中のひとつである、2020年度集中講義「協働術D(共創型社会開発論)」(松浦 博一、上西 啓介、森栗 茂一、他)を紹介します。
<本授業の目的>
(1) 梅田の実際から、知識社会におけるまちづくりのあり方を実践的に学ぶ
(2) 産官民の起業・まちづくりのプロフェッショナルの実践にふれ起業の実際を学ぶ
参加しているのは、学部2年生から大学院2年生までの13名。所属は工学研究科、情報科学研究科、文学研究科、人間科学研究科、経済学部、外国語学部など、多様なバックグラウンドを持つ受講生が集まりました。
受講生たちは、4月に授業がスタートして以来、第一線で活躍する多様な専門家の講義を聴き、「どんな開発であれば、知識社会の希望になるか?自分自身が働きたいか?」というテーマでグループワークに取り組んできました。
8月7日授業では、4人の専門家の方々の講義を聴き、その後、質疑応答とグループディスカッションが行われました。
今回は、特に活発に行われた質疑応答の様子をレポートします。
堤 研二 大阪大学 文学研究科 教授
講義テーマ:国土における大阪の位置〜都市・地域・社会をめぐる大状況と大阪における再開発の可能性(人文地理学の視点から)
質問:講義のなかでリニア新幹線についてのお話がありましたが、整備新幹線などの他の高速鉄道についてもお話を伺いたいです。
堤先生より:
コロナ禍でインバウンド観光客が大きく減っているなか、リニア新幹線が本当に必要なのか、という議論が起こっているのは事実です。すでに進んでいるリニア計画も遅れるだろうという予測があります。同様に、整備新幹線についても、すでに開通が見えているところもある一方、今後の経済事情によって全体の計画が変わってくる可能性があると思います。
また、高速鉄道を通すことによって人口密度が低い地域でどのくらいの経済効果があるのかということについて、再調査する必要があります。高齢化が進むと遠距離移動は減少するからです。限りある財源を高齢化社会のなかでどのように使っていくべきか、今後一層の議論が必要だと思います。
質問:講義の中で『ネットワークが重要だ』というお話がありましたが、もう少し具体的に教えてください。
堤先生より:
人と人とのネットワークが重要です。例えば、過疎地域である離島の人と、都市部の人がどうつながるか、ということです。それは、人と人の行き来ということに限らず、インターネット等を利用してどういった『意識のつながり』を創ることができるか、ということも含みます。将来に向け、そのようなネットワークを創出することが、高度な人材輩出や調査研究につながる可能性があると考えています。
土井 健司 大阪大学 工学研究科 教授
講義テーマ:スマートな都市、快適で強靭な人間居住の実現にむけて〜ニューノーマルとニューローカル
質問:講義の中で『地域や社会に根差した価値合理的な取り組みが重要』というお話がありました。『価値合理的な取り組み』のコンテキストとはどのようなものなのでしょうか。
土井先生より:
さまざまなことを含む『文化』と考えてもらえれば良いと思います。例えば、郊外のニュータウンには独自の文化、食住のスタイルがありますよね。地域によってローカルな文化があるわけです。ニュータウンのような地域ではシェアリング的なサービスは成立しやすい一方、誰がその担い手になるのか、という課題があります。一方、都市部でそういったサービスの担い手はたくさんいるものの、サービスを成立させるほどのニーズを見つけるのは難しい、という面があります。そういったことを多面的に捉えていく必要があると思います。
質問:『価値観の将来変化の把握は困難ではない』というお話がありましたが、私は、コロナの影響で人々の価値観に大きな変化があったと感じています。先生のお考えをお聞かせください。
土井先生より:
価値観は、何らかの指標で見ることによって、その変化を計測、評価することができるようになります。それによって将来予測も可能になるかもしれません。それには様々な方法が考えられますが、私が重要だと考えていることは、今後学問として価値観を指標化し、可視化するということに積極的に取り組むべきだ、ということです。
辻堂 史子 株式会社シティプランニング 建設コンサルタント
講義テーマ:都心の交通と物流〜土木計画学の視点とコンサルタントの視点〜
質問:コロナ禍によって、都市間の長距離の移動の需要に大きな変化があったと思います。これについて、どのようにとらえていますか?
辻堂先生より:
都市間移動の『都市』とは何を意味するのか、ということについて、今一度考える必要があると思います。確かに、コロナ禍において、移動の定義や手段、目的が大きく変化しつつあります。コロナ以前に戻る見込みは今のところ全くありません。私たちは今、『どうすれば人が移動したくなるか』、そのアイデアを現場で出しあうところから考え始めています。
質問:私は建設コンサルタントを志望しているのですが、やりがい、困難にはどのようなものがありますか。
辻堂先生より:
街が変わるのには、10年20年という長い時間がかかるのですが、その変化が実感できたときはとてもうれしいです。大変なところは、建設コンサルタントに期待される役割がどんどん変化していくので、一生勉強し続けないといけない、というところですね。最近は文系出身の方もこの業界に入ってきています。経済や経営の知識がある人たちと連携し、そういった知識も取り込みながら、新しい提案ができるようになってきています。一生勉強であることは間違いない、と思います。
岸本 充生 大阪大学データビリティプロンティア機構 教授
講義テーマ:都市開発とELSI(倫理的・法的・社会的課題)
質問:講義の中で『スマートシティ』という言葉が出てきましたが、一方で、『デジタルシティ』という言葉も聞いたことがあります。その違いはどのようなものなのでしょうか。
岸本先生より:
新しい都市概念を表す言葉が多く存在し、デジタルシティもそのひとつです。一方、それぞれの言葉の定義が非常に曖昧だという現状があります。概念としては、スマートシティとデジタルシティは同様のものと捉えてもらって良いと思います。
大阪は、スマートシティ戦略に『都市免疫力』という考え方を取り入れようとしています。それは、感染症を含む外部からの様々な脅威にどのように対応できるかということです。その指標をどのように設定するのか、ということについても国際的な議論が始まっています。
質問:スマートシティは、どのような規模で導入されるものなのでしょうか。
岸本先生より:
例えば、新しいエネルギーを導入するというケースでは、都道府県のような比較的大きな地域になるのかもしれません。一方、自動運転を導入するというようなケースならば、もっと小さな地域になるのかもしれません。どのような目的で何をやりたいのかということを決めることによって、おのずとその規模が決まってくると考えています。
多様な背景を持つ受講生たちが、時間いっぱいを使って、熱心に質問する様子が非常に印象的な授業でした。
COデザインセンターでは、今後もこのように受講生が主体的に参加する授業を企画、運営していきたいと考えています。
(書き手:森川優子 COデザインセンター特任研究員)