受講生インタビュー(小川啓さん)
秋冬学期「表現術A(臨床記号論)」
COデザインセンター開講科目<表現術>
COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。
また、それらの科目の一部は、他大学学生・社会人の方向けにも公開されています。
今回は、秋冬学期に「表現術」として開講されている「表現術A(臨床記号論)」(担当:山森裕毅)に「公開講座受講生」として参加しておられる 小川 啓さんにお話を伺いました。
「僕の『表現術A(臨床記号論)』の受講生に、ぜひインタビューしてほしい方がいらっしゃるんですよ」と、山森先生に紹介された方が小川 啓さんでした。
いつも、生き生きとした表情で授業を受けておられる小川さん。お仕事を定年されたいま、COデザインセンターの授業を阪大生たちとともに受講しておられます。学生たちとはまた違った視点で「学ぶ」ということをとらえておられる小川さんに、お話を伺いました。
(インタビュー実施日:2020年1月)
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- 小川さんは、関西大学と大阪大学で授業をとられているそうですが、他にも行かれている大学はあるのですか。
小川:いや、それだけです。僕、弱視なのでね。移動するのが大変なので。阪大と関大は家から近くて便利なんです。
- なるほど、そうなんですね。年間どのくらい受講しているのですか。
小川:阪大では、前期と後期で一つずつ授業を受けています。
- 関大は。
小川:二つのときもあれば、一つのときもあります。
- そうですか。
小川:実は阪大に受けたい授業はいっぱいあるんだけど、夜の授業が多いのでね。夜だと、僕はまったく見えなくなってしまうので。昼間はまあ、なんとか見えるんだけどね。
- 今までに、COデザインセンターのどのような授業を受けられたのですか。
小川:最初は、地域活性化がテーマの授業やったかな。どんな風にバスを走らせたら、人の動きが増えて町が活性化していくか、というものでした。その後は科学技術の授業を受けました。平川さんの。
- 平川 秀幸 先生の授業ですね。どうして平川先生の授業を受けようと思ったのですか。
小川:科学技術の歴史に興味があって。科学技術の歴史というのは、戦争とは無関係ではいられないのでね。つまり、兵器の開発ですよね。僕は子どものときからそういうのに興味があったので。戦後から現在までの科学技術の発展について、僕は子どものときから実際に見てきているから。学生さんたちに混じってディスカッションすることもあるんだけど、そういう自分の経験を話したりしています。その後受けたのは、池田 光穂 先生の授業やったかな。
- どんな授業でしたか。
小川:医療の臨床現場がテーマの授業だったと思います。たしか歯学部の学生さんたちが受講していて、一緒にグループディスカッションしたりしました。僕は病院に勤めていたので、医療現場のことをある程度知っていたから、受けてみようと思ったんです。
- そうなんですか。小川さんは、病院でどんなお仕事をされていたんですか。
小川:盲学校に通って、はり・きゅう・マッサージ師の国家資格を取って。で、病院に勤めて、交通事故の患者さんのリハビリをやっていたんです。そういうことがあったので、池田先生の臨床系の話は面白かったですね。
- 『表現術A(臨床記号論)』はいかがでしたか、受けてみて。
『表現術A(臨床記号論)』(担当:山森裕毅)(シラバスより)
人間の実践には記号の使用が伴います。しかし、それが自覚的に行われることはあまり多くありません。例えば、私たちは話しあうときに、言語だけでなく表情や身振りといった非言語的表現も伴わせてコミュニケーションを行っています。また私たちは自然現象の予兆や痕跡、動物の行動、病気の症候、人工的な標識などの記号を読み解きながら、日々の生活を営んでいます。さらにいえば、臨床現場ではちょっとした仕草や生活の変化が、その後に起こる大きな変化の徴候になっていることがあります。
この授業では、さまざまな記号の在り方を学ぶことで、私たちがなにげなく行っている記号実践を自覚的に扱えるようになることを目指します。記号実践は日々の営みから社会実践に至るまで幅広い範囲で行われているため、記号実践を鍛えることは汎用力を身につけることになります。
小川:僕は、こんな分野があるのは知らなかったから、面白いですね。へえ、こういう研究分野があるんや、と思いました。僕は視覚障害者やから、視覚とか、聴覚とか、触覚とか、そういう『五感』に関する授業をやっておられるということに興味があって、それでこの授業をとったんです。人間が五感を通じてどうやって周りのことを認識するか、とか、感じたことからどういう風に思考するのかとか、そういうことを考える授業で、面白かったですね。
- もう、ご自身の生活の中に、大学に来るのが組み込まれているのですね。
小川:いやいや、まったくそうですよ。僕らの時代はね、ちょっと特殊で。大学紛争やったんです。そのせいで授業がなかった。親が高い授業料を払ってるのにね。いま僕は自分で授業料を払って勉強しているから、そのありがたみがよくわかる。若いときにそういうことがあって、それで定年して、時間ができた。だから、学び直すというほど大袈裟なものではないのだけど、こうやって勉強しているんです。
小川:阪大の授業でレポートが課されたときは、知り合いにボランティアというかお手伝いを頼んでいてね。マジックとかで書くんです。だけど、マジックだと、字画の多い字だったら、なんて書いてあるか分からんでしょう。僕が書いた字が読めるかどうかいうのが分からないから、だからそれを修整してもらったりとかね。そういうお手伝いはしてもらっています。
- そうなんですね。
小川:あと、僕は、インターネットができないから。レポートを書くときに調べものをしないといけないので、それをスマホでやってもらって、読み上げてもらって、レコーダーで録音して、再生して聞いて。それでレポートを書いたりしています。
- 学生さんたちに混じって授業を受けておられますが、どのような印象を持っていますか。
小川:若い子たち、僕みたいなのが授業に混ざっていても、あんまり関心がない様に見えるかなぁ。なんていうんですかね、距離を多めに取っているような感じはしますけどね。
- これは私の個人的な印象ですが、学生さんたちはああ見えて、実は結構よく見ているのでは、と。小川さんのことも、やっぱり意識していると思うんです。彼らが歳をとったときに、大学の授業を受けに来られていた小川さんのような方がいらっしゃったな、と思い出すのは、結構大きなことだと私は思います。
小川:僕もそう思うんだけどね。
- 学生さんに姿勢を見せていただくのが大事なことだと思います。こうやって学び続けることが当たり前なんやでっていう。
小川:なるほど。そういうことがあるんかなぁ。
- 今回はいろいろとお聞かせいただき、ありがとうございました。
小川:いえいえ。
(聞き手:森川優子 COデザインセンター特任研究員)