大阪大学
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INTERVIEW

受講生インタビュー

2020年1月10日(金) 公開

受講生インタビュー(川上結生さん)
春学期「科学技術コミュニケーション入門A」ファシリテーションスキルを学ぶ
社会とつながる〜大学の「外」で話す(3)
議論の広がりをつかみ、「意見の地図」をつくる

科学技術コミュニケーション入門A」は、意見や関心が異なるひとびとのコミュニケーションの場を想定し、そういった場でのファシリテーションスキルを学ぶ授業です。

演習の題材は、自動運転、再生医療、宇宙政策など、科学技術と社会のあいだでコミュニケーションが必要とされる社会課題です。

春学期に行われたこの授業で、受講生たちは、ファシリテーションスキルを学び、そして、大学の「外」で開催されたサイエンスカフェやワークショップでファシリテーションを実践しました。


<実践の場>
・2019年6月26日:サイエンスカフェ@千里公民館「自動運転とわたしたちの暮らし」
・2019年7月13日:市民参加型ワークショップ@梅田「新しい医療と、くらし〜再生医療のあるべき未来像〜」


今回はファシリテーターとして参加した3人の学生に、感じたこと、考えたことを話してもらいました。


本シリーズの記事はこちらをご覧ください。
(1)安井 裕人 さん(大阪大学大学院生命機能研究科 博士前期課程1年)
「参加者の方の気持ちの変化に気づくことができた」

(2)川端 玲 さん(大阪大学大学院工学研究科 博士前期課程1年)
「論点を整理することで、議論の質を高めることができる」

3回にわたりレポートする、最終回です。


川上 結生 さん

(大阪大学理学部物理学科惑星物質学グループ 4年)

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- 川上さんは学部4年生ですよね。主に院生向けに展開しているCOデザインセンターの授業を知ったのは、どのようなきっかけだったのですか。

学部1年生のときに、たまたま教務課で大学院生向け教養科目の紹介冊子を見つけました。当時は学部の授業以外をとる余裕はなかったのですが、いつか受けてみようかな、という気持ちはありました。部活動を引退したことで少し時間に余裕ができたので、いくつか興味のある授業を受けてみようと思ったのがきっかけです。

- 授業「科学技術コミュニケーション入門A」は、実際に受講してどうでしたか。

楽しかったです、とても。

- どういうところが楽しかったですか。

手を動かしながらそれと並行して考える、というのが楽しかったです。授業の中で、自分の頭をフルに使って考えている、という実感がありました。インプットとアウトプットを同時にやっている、という感覚でしょうか。私はこういうことが好きなのだな、得意なのだな、と思いました。それは授業を通して気付いたことかもしれません。


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- 川上さんは、市民参加型ワークショップ「新しい医療と、くらし〜再生医療のあるべき未来像〜」に参加されました。参加してみて、いかがでしたか。

初めてのファシリテーター役だったのでとても緊張しました。事前準備として「議論がどこまで広がるか」を、自分なりにシミュレーションしてから、本番にのぞみました。

- どんなふうにシミュレーションしたのですか。

このワークショップの中で扱う問いについて、事前に自分で意見を出してみました。その上で、自分が出した意見の「逆側」を考えました。この意見の観点とは逆の観点からだったらどういう意見が考えられるかな、という感じです。

- それは、ひとつの意見の「幅」を考える、ということでしょうか。

そうですね。そうすると、だいたいこういう議論の広がりになるのではないか、という自分なりの想定ができました。本番でも、その想定していた範囲内で議論がおさまったと思います。

本番では、初期の段階で参加者の方それぞれの「基本的なものの見方」について把握するよう意識しました。次に、ひとつひとつの意見を聴きながら、そのひとがどのくらいの幅をもたせてその意見を言っているのか、ということを考えました。ある一定の方向から物事を見るタイプのひとか、そうでないのかということを理解しようと思いました。

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- ぜひもう少し、詳しく教えてください。

例えば、Aさんという参加者の方は、いま、このあたりの立場で意見を言ったけど、実はその発言の中に逆の立場から見てはじめて分かることも入っているから、おそらくAさんはあの辺まで見て言っているのだな、と理解するような感じですね。一方で、Bさんという参加者の方は、ワークショップのはじめの段階ではこのあたりの観点は持っていなかったけど、他の参加者の方の意見を聴いて少し言葉の使い方が変わったな、と。ということは、Bさんは最初は見えていなかったこのあたりまで見えてきたんじゃないかな、と、参加者の方の変化に気づいたりもしました。

- 川上さんは「このひとはだいたいこのあたりから見ていて、この範囲の意見を持っている」という「意見の地図」のようなものをイメージしてファシリテーションしているのですね。そういった「参加者の方の観点・意識」の理解のために、どのようなことを具体的にやっていたのですか。

意識的に「質問」をしました。「いま、こうおっしゃったけど、これはこういうことでいいですか?」という感じです。それに対してそのひとから「違う。そうじゃなくて、もうちょっと、こうこう、こういう感じ」と、表現を増やして返してもらう。そして「では、こんな感じですか?」とまた質問して、「だいたい、そうです」と言ってもらう、というやりとりですね。

- なるほど。


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ワークショップで議論をまとめて報告する時間では、私はひとりでグループのファシリテーターを担当していたこともあって、この意見が出て、次にこの意見が出て、というふうに、意見と意見の「つながり」を意識して説明するようにしました。

でもそう考えると、もうちょっとこうしたほうがよかった、というところもありました。そのひとつは、ホワイトボードの使い方です。私はホワイトボードの半分だけを使ったのですが、全面使ってよかったんだ、ということに後から気がついたのです。最初から1枚まるごと使っていたら、もうちょっと自由に表現できたと思います。そのほうが、意見と意見のつながりがわかりやすかったかな、と。

- ホワイトボードを自由に使ったら、もっと視覚的にわかりやすい「意見の地図」を表現できたのではないか、ということですね。

はい。もうちょっと工夫して、わざとごちゃごちゃと表現する、ということができたらよかったな、と思いました。


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- ワークショップをとおして、ご自身についての気づきはありましたか。

私のグループには普段あまり科学に触れることがないという方と、実際に科学に携わっている方の両方の立場の方がいました。そして、そこにはかなり大きな考え方の違いがあると感じました。

私自身は、物理を学んでいるので、やはり「科学に携わっているひとの視点」でものを見ているのだな、と思いました。私の意見としては、科学の発展のここが不安だとか、ここに危険があると考えるより、その危険はあるかもしれないけど科学は推進するべきだ、という見方の方が強いようなのです。ワークショップのなかで、個人の経験や感覚にもとづくと科学の発展に対してこういう不安があるという意見を聴いて、そういうことを不安に感じるのだな、とあらためて気づくことができました。

参加者の方々の中で自分がどの立場に一番近いのか、ということを客観的に見ることができたのは、興味深くて印象的な経験でした。そういうことに気づくことができたからこそ、ホワイトボードに出てきた意見を書いていくときは、自分が理解できる方向にばかりに意見を書いてしまわないように意識を向けるようにしました。できる限り全体のバランスをとって書こうと自分なりになんとかがんばった、というのがワークショップの感想でもあります。


(書き手:森川優子 COデザインセンター特任研究員)

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