授業レポート
春~夏学期「訪問術E(マイノリティ・ワークショップ)」
COデザインセンター開講科目<訪問術>
COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。
今回は「訪問術」として開講されている「訪問術E(マイノリティ・ワークショップ)」についてレポートします。
COデザインセンターが開講している春~夏学期「訪問術E(マイノリティ・ワークショップ)」は、学部生、全研究科大学院生が受講できる「コミュニケーションデザイン科目」です。
本授業の目的は、以下のようにシラバスに記載されています。
「訪問術」とは、ふだんじぶんたちがいる「ホーム」から出て、他の場所、他の人々を訪問し、経験と対話を重ねるための術です。
ジェンダー、セクシュアリティ、エスニシティ、貧困、病など、社会的排除によって社会のなかでにマイノリティの境遇に立たされる人たちに関わる課題について、ゲストおよび受講者どうしの対話をとおして考えます。マイノリティが社会的につくられていることを、自らの経験のふり返りと多様な人びととの対話をとおして理解すると同時に、だれもがもつ権利について考え、具体的な態度や行動に結びつけることを試みます。
「社会的排除」とは難しい言葉です。この授業で目指されているのは、このような問題についての知識を得ることでも、その解決を目指して議論することでありません。たいせつなのは、この社会でさまざまなマイノリティの課題に取り組む方々に直接会うこと、話を聴き、みんなで声をだし、対話しながら、問題のなかを生き抜く〈ひと〉の知恵を学ぶことです。
今回は、2019年6月7日の授業の様子をレポートします。
この日は、「にじいろi-Ru(アイル)」のおふたりをゲストとしておむかえしました。
授業は、自己紹介からスタート。
授業を担当する ほんま先生からは、つぎのようなお話がありました。
「今日のゲストのお二人はふだん、ちいさなこどもたちを相手にお仕事をされています。お二人に、『こどもたちにもわかる言葉』で自分の関心について紹介してください。
世のなかには、わかったようにしゃべるのに便利な言葉があります。例えば、『多様性』という言葉も、そのひとつとしてあげられるでしょう。『多様性』というと、なにかを言ったような気分にはなるのですが、ほんとうはいったい何のことを言っているのか?どういう意味なのか?ということを考えることが大切です。
私たちは、『難しい言葉』を使うように学ばされている、というところがあります。『難しい言葉』を使うと話に入ることができる、という面もありますね。逆に、その言葉を知らないと話に入れないということもあります。言葉はひとを招き入れることもあれば、逆に、閉め出してしまうこともあります。
『こどもたちにもわかる言葉』で話すのは、そういったことを考えるきっかけになります。」
受講生たちは、とまどいながらも、言葉を選びながら自己紹介していました。
つぎに、「にじいろi-Ru(アイル)」田中 一歩さんのお話です。
1975年生まれの一歩さんは、24年間「女性」として生きてきました。
長いあいだ「じぶん」と向き合ってきて、今は「じぶん」を生きている、とお話ししてくださいました。
「にじいろi-Ru(アイル)」の「にじいろ」には「いろんな人がいていいんだよ多様性を表しています。」という思いを込めている、と一歩さんはお話されます。「i」は「わたし」。あなたも私も、たった一人の「じぶん」。「i-Ru」は、私はここに「いる」よ、という、「いる」とも読むことができます。全てのひと、ひとりひとりがじぶん自身としてここにいるよ、いないことにされていいひとはひとりもいないんだよ、という意味があるのです。
一歩さんたちは、こどもたちに向けて「じぶん、まる」「じぶんでいいよ」というメッセージを届ける活動を行なっています。それと同時に、今回のように、大人向けのお話をする活動もしているとのことです。
一歩さんは、受講生たちに、ご自身の体験を話してくださいました。
幸せなこども時代を過ごしたと話す一歩さん。学校は楽しく、友達もたくさんいたそうです。ただ、そのときのことを思い出すと、楽しいけれど、うそをたくさんついていた、と話します。じぶんが「本当はこうでありたい」と思うことと真逆の行動をとって生活していたと言います。それがあまりにも当たり前すぎて、うそをつくことにしんどさを感じないほどだった、と話します。
近藤 孝子さんです。こんちゃんと呼んでください、と自己紹介されました。こどもが大好き、こどものことを大切に考えている、ということを繰り返しお話しされました。こんちゃんは一歩さんと一緒に、にじいろi-Ru の活動を行なっています。
一歩さんとこんちゃんは、保育士として一緒に働いていました。一歩さんはこんちゃんのこどもに対する姿勢どんなこどものことも尊重する姿に感銘を受けたのだそうです。そして、一歩さんはこんちゃんに初めてじぶんのことを素直に話すことができたのだそうです。
一歩さんとこんちゃんは、たくさんの人と出会うなかで、じぶん自身に向き合い、そして、じぶんはじぶんでいいんだな、と考えるようになりました。
一歩さんは、ご自身の経験をもとに、絵本「じぶんをいきるためのるーる。」を生み出しました。一歩さんとこんちゃんは、この絵本をこどもたちに届けるために、2015年1月、にじいろi-Ru を立ち上げました。
このこたちは、「じぶんちゃん」です。
「じぶんをいきるためのるーる。」を読んだあと、一歩さんとこんちゃんは、4,5歳のこどもたちみんなと、この「じぶんちゃん」をつくるのだそうです。
いろんなポーズをしているじぶんちゃん。
「これはじぶん自身なんやで」と、一歩さんとこんちゃんはこどもたちに伝えます。そして、じぶんの好きなようにつくっていいよ、と話します。どの色を塗るか、どの素材を使うか、「じぶんで選ぶ」ということを大切にしてほしいと伝えます。そして、出来上がった じぶんちゃんたち です。
一歩さんは「ほんとに、ひとつひとつ違う じぶんちゃん なんですよ」と、受講生たちに語りかけました。同じ じぶんちゃん はひとりもいません。この活動をとおして、一歩さんとこんちゃんは、こどもたちに「ひとりひとり違うんだよ」ということを伝えるそうです。「あなたがそうであるということも大切で、となりのこがあなたと違うということも、大切なことあなたの大事にしたいことも大大事、隣のともだちの大事にしたいことも大事にしたいね。大事なことは、友達と同じこともあるけど、違うこともあるよ。」だと伝える、とお話されました。
一歩さんとこんちゃんの言葉、ひとつひとつが受講生たちに届いたに違いありません。おふたりのお話に聴き入る受講生たちの表情が印象的な授業となりました。
(書き手:森川優子 COデザインセンター特任研究員)