受講生インタビュー(礒見愛香さん・長者原翼さん・三枝千紘さん・吉住博樹さん)
<生きる視点プラス>プロジェクトのその後
COデザインセンターでは多様な取り組みが行われています。
2018年1〜3月、「実習 → 演劇プロジェクト<生きる視点プラス>」が、以下の日程で行われました。
実習 → 演劇プロジェクト<生きる視点プラス> 活動内容・日程2018年1月16日:初回のオリエンテーション、顔合わせ
2018年1月22日〜27日:遊心会「デイケアのぞみ」実習
2018年2月3日:一般社団法人 震災こころのケア・ネットワークみやぎ「からころステーション」の方が大学にて、地震と防災についての講義
2018年2月9日〜11日:「からころステーション」実習
デイケアのぞみウェブページはこちら。
医療法人遊心会が運営する『デイケアのぞみ』では、精神科に通院中の方のための、様々なリハビリテーションを行っている。 ゆっくりと過ごす個人プログラムや、グループ活動を中心とした集団プログラム等を毎日用意している。
からころステーションウェブページはこちら。
震災後のこころのケアを目的に設立された 一般社団法人 震災こころのケア・ネットワークみやぎが運営する、被災地での精神保健活動の拠点。
石巻周辺地域にお住いの方々や、仕事をしている方々のこころのケアを中心にした健康相談などの活動を行っている。「からころ」には「からだ」と「こころ」の意味があり、「ステーション」には石巻駅前にあるということと、利用を希望される方に気軽に足をとめてほしいという意味を込めている。からころステーションは、石巻市と宮城県からの委託事業で運営しており、訪問や相談などはすべて無料となっている。
参加した学生たちは、この企画をとおして「デイケアのぞみ」と「からころステーション」というケアの現地に足を運び、また、東日本大震災で被害にあった石巻のまちを歩きました。自分の目で実際に課題や実践を見、それらを肌で感じるという経験をしたのです。

今回は、この企画の担当者であった山森さんが聞き手となり、当時企画に参加した皆さんに「あの経験を振り返って、今どう感じるのか」について語ってもらいました。一年以上の時間が経ち、まわりの環境も変化した今、それぞれどのようなことを考えているのでしょうか。
今回は、当時企画に参加した皆さんに「あの経験を振り返って、今どう感じるのか」について語ってもらいました。一年以上の時間が経ち、まわりの環境も変化した今、それぞれどのようなことを考えているのでしょうか。
聞き手
・山森 裕毅(COデザインセンター特任講師)
話し手
・礒見 愛香 さん(当時:人間科学部、現:会社員)
・長者原 翼 さん(当時:人間科学部、現:会社員)
・三枝 千紘 さん(当時:文学部、現:文学部)
・吉住 博樹 さん(当時:工学研究科、現:会社員)
※)「デイケアのぞみ」の受け入れ側の代表者としてこの活動をサポートしてくださった 坂井 新 さん(臨床心理士)と山森さんの対談は、こちらをご覧ください。
山森
ー では、順番にお話を伺いましょうか。吉住さんからどうぞ。
吉住さん
ー このプロジェクトで支援の分野を知ることができた、というのが私にとってとてもよかったです。短期間のプロジェクトだったので、表面的な理解だったのかもしれません。でも、OT(作業療法士)さん、CP(臨床心理士)さん、PSW(精神保健福祉士)さん、という支援のフレームがある、ということを知ることができました。いつか自分が障害を持たれた方に接したとき、わからないからと言って思考を止めてしまうのではなく「自分ができることは何か」と考えることができるのではないか、と思います。
一方で、僕自身がそういう風に考えるようになっても、そのことをまわりのひとに発信する表現力が僕に足りない、と感じるようになりました。僕の経験を発信するタイミングも、発信する方法も、なかなか思いつかないのです。
経験によって得たものを誰かに伝えようとしても、受け手側のひとが想像力を働かせてくれないと、なかなか伝わらない。僕はどうしても、「これは、経験していないひとにはわからないかもしれない」と感じてしまうんですよね。受け手側のひとがそのことそのものを経験していなくても、僕が話すことでそのひとの想像力を喚起するにはどうしたらいいのか。それが、このプロジェクトで僕のなかに新しく生まれた思いです。
それから、このプロジェクトでもう一つよかったことがあります。それは、短期間であったにもかかわらず、ざっくばらんにものを言える人間関係が構築できたことです。今振り返ると、これは結構すごいことだったんだなと思います。もちろん、山森先生と坂井さんのフォローがあったからですけれど。どうしてそういうことができたのかな、と、思っています。
礒見さん
ー 私も、特に社会人になってから吉住君に近いことを感じるようになりました。このプログラムが大学で行われたものだったからなのかもしれないのですが、ある程度重みをもったテーマについて、自分が思ったことや感じていることを深く話すことができるメンバーだったと思います。
山森
ー 社会人になると、そのような場はあまりないと感じますか?
礒見さん
ー そうですね...。なにかについて深く話すには、かなり時間をかけてそのひととの関係性をつくる必要があると感じますね。このプログラムで出会ったメンバーとは、いろいろなことについて話すことができただけでなく、深く話した後もいい距離感でいることができました。その感じがすごくよかったなと、今振り返って思っています。
もちろん、私のなかで、「からころ」や被災地に足を運んだこと自体が、すごく大きな経験でした。自分で、経験として「行った」ということに意味があったと思います。ただ、私は「これを得ることができました」というようなことを、いまだにきちんと言葉にできていなくて... 学生生活の最後にこのプログラムに参加できたのは、本当によかったです。その「よかった」をうまく表現することができていないまま、ここに来ている、という感じがあります。
あえて言葉にするなら、体験して「わからない」と思ったことがあったのが、特によかったと思います。「わからない」ということがわかりました。
今は、企業で働くなかで、弱い立場のひとに寄り添えるひとになりたいな、と思っています。自分になにができるのかな、でも、こういう経験をしたからこそできるようになりたいな、と。漠然としているのですが。まだまだ勉強が足りないな、とも感じています。

山森
ー ありがとうございます。では、長者原さん、どうですか?
長者原さん
ー 坂井さんがおっしゃっていたように、(デイケアのぞみに通っておられる)メンバーさんたちが僕たちに「良い面」を見せようとしてくれた、というのは感じました。メンバーさんたちが外部のひとと触れ合うと笑顔になる、という面があるのかな、と。一方で、僕たちがケアの現場に入ることがスタッフの方の負担になっていたのだろうな、とも思います。
僕自身としては、(デイケアのぞみの)スタッフのGさんがしてくださった発表が印象に残っています。Gさんが、発表のなかで、震災後の支援に行ったときに「助けるひとの人生を引き受けるぐらいの気持ちがないとダメなんだ。それくらいの熱意がないとダメなんだ」と思った、という話をしてくださったんです。「普段の業務でも大変なのに、まだそれを言えるんや!」という気持ちがしました。すごいな、と思いました。
山森
ー 三枝さんはどうですか?
三枝さん
ー 私は、(ケアの現場で働く)スタッフの方の仕事への態度や考え方がとても印象に残っています。今振り返ると、私は当時、世の中の仕事というものをルーティンワークのようなものだととらえていたんだなと思います。でもこのプロジェクトをとおして、仕事をするというのは「仕事があって、それをただやる」ということじゃないんだ、と思うようになりました。大人が仕事をしている現場に行って、直接お話が聞くことができたのが、私にとって一番よい経験だったと思います。
私は、「福祉で弱い立場のひとを支えています」というような考え方があまり好きではないのです。テレビ番組などではそういう表現が多いように思うのですが。当事者という視点で障がいについて考えようとすると、障がいと名付けるから障がい者、健常者、という風に分けてしまうのではないかな、とも思いました。もともと人間って、ひとりひとり違う。そういう考え方を大事にしたいな、と思ったりしました。
文:山森裕毅 COデザインセンター特任講師(<生きる視点プラス>プログラム担当者)