シナノケンシ株式会社
矢島 裕章さん インタビュー
「ひととつながる場」を求めて
COデザインセンターで様々に展開される授業や活動。それらに関わった方々が、その後どのように歩みを進めるのか。卒業生の方々にインタビューするシリーズです。
今回は、矢島 裕章 さん(シナノケンシ株式会社)にお話を伺いました。
矢島 裕章 さん大阪大学文学部 2014年3月修了
シナノケンシ株式会社 経営戦略室 ブランドマネージャー
外資系サービス系企業、一般社団法人を経て、2016年8月より現職
つながりを大切にして
― 今のお仕事について教えてください。
経営企画を行う部署でブランドマネージャーとして仕事をしています。入社当初は新商品のマーケティングに関わり、その後、会社の新ビジョンづくりに取り組みました。弊社は絹糸紡績から始まった企業で、2018年に100周年を迎えました。現在のメインプロダクトはモーターでして、今後の事業拡大を見据え、会社のブランドを進化させようとしています。
今の職場には「何か困ったことがあったら、業務の枠組みを超えていつでも助けあおう」という雰囲気を感じ、そこが自分に合っているなと思っています。実は、現在の社長が同じ高校のOBというつながりもあるんです。私は自分の所属先を決めるとき、仕事だけではない、なんらかの「つながり」をつくろうとするところがあるんです。せっかくできたつながりを大切にしよう、長く保っていこう、ということも常に意識しています。
― そのように意識しているのはなぜでしょうか。
シンプルに、ひとが好き、なんですよね。大学生のときからその気持ちは強く、自分から「ひととのつながり」を見つけようとしていろいろなコミュニティに参加していました。その一つが大学1年生の夏休みに参加したリーダーシップ研修(※1)で、そこでCSCD(※2)の存在を初めて知りました。身体を動かすことをとおしてチームづくりをする平田オリザ先生(※3)のワークショップを体験したことを覚えています。そういうワークショップは初めて経験したので、とても印象に残っています。
CSCDで出会った「ひと」のことを覚えている
― CSCDで経験したことで、他に覚えていることを教えてください。
森栗先生(※4)の授業をたくさん受けましたね。授業の思い出はいろいろありますけど、特にまち歩きの授業では、自分でその場に行き、そこにあるものを自分の目で見て肌で感じる、ということがとても大事だなと思いました。行かないと分からないことがたくさんあるんですよ。例えば、京都の西陣のあたりを歩くと、家の前に防火用の水がバケツに入れて置いてありました。まちを大切にするそういった慣習が日本にまだちゃんと残っていることに感動したのをよく覚えています。その場に行って実際に見ることで、だれかに教えてもらうのではなく、自分で気付くのです。
もうひとつ印象に残っていることがあります。それは、中之島センターで森栗先生の授業があったとき、お昼ご飯を一人一品持って来て、みんなでシェアして食べたこと。結構個性が出るもので、ご飯系を持ってくるひと、お肉系を持ってくるひと、イチゴを買ってくるひと、いろいろいました。CSCDの授業って、受講生の年齢も所属もばらばらでしたが、そういうことがきっかけで打ち解けて仲良くなったりしました。
― そういうのを覚えているのは面白いですね。
私の場合は、結局は「ひと」なのだろうなと思います。CSCDという場にそのときどういうひとがいたか、そのひとたちとどうつながりを持ったか。そういうことをよく覚えています。
ひとの前で話す、ということをやっていきたい
― 今後やってみたいことについて教えてください。
大勢のひとの前でしゃべる、ということが今とても楽しいんです。もっとそういう機会をつくりたいと思っています。ひととつながりつつ、しゃべるということがとにかく楽しい。
― なにがきっかけでそう思うようになったのでしょう。
母校の高校で講演する機会があり、それがとても楽しかったのです。その後も、中学校や大学など、いろいろな学校でそういう機会をいただきました。また、地域の国際交流団体にもプライベートで所属しているのですが、去年の夏には、上田市の姉妹都市、アメリカコロラド州ブルームフィールド市郡に交換留学に行く中学生12人にワークショップを行いました。チームビルディングを目的としたワークショップで、私が企画、運営を行いました。そういった私の行うワークショップの基礎となっているのは、大学時代にCSCDで受けた授業なのだと思います。
私が伝えたいのは、本当にやりたいことや自分の好きなことにもっと素直になっていいんだよ、ということです。特に中学生や高校生に話をするときには、親に言われたとか、先生に言われたとかではなくて、自分が本当は何がやりたいのかを考えて、それをやってみようと伝えます。別に特別なことじゃなくて、ちょっとしたことでもいいんだよ、と。
でも、私としては、自分の思いを伝えるにとどまらず、司会とか、実況とか、そういう何かひとの前で話すということそのものが、すごく好きなことなのです。
せっかく大阪大学にいるのだから、幅広い経験を
― 後輩のみなさんにアドバイスをお願いします。
自分は何が得意なのか、好きなのか、ということを、学生の間に、なんらかの具体的なアクションをとおして知っておく、ということは大切だと思います。「なんとなくこれが得意かな」というくらいで良いので。例えばイベント一つやるにしても、イベントをゼロから1にするのが好きなのか、1から100にしていくのが好きなのか、皆それぞれかなり違うと思います。そういう私も、いまだに自分はどっちが好きなのかな、というところがありますが、大学時代のさまざま経験をとおして、なんとなく、1から100にする方が好きなのかな、と感じています。そういう「なんとなく」の感覚があると、自分の能力を発揮するためにどういう環境を選んだら良いのかを見極めることができる。そのために、新しいことにチャレンジするとか、新しいコミュニティに入ってみるとか、そういう経験をたくさんしてほしいと思います。私の「ひとの前で話すことが好き」というのも、いろいろやってみて「ああ、自分はこういうことが好きなんだ」と気づいた、ということなのです。
一方で、矛盾するように聞こえるかもしれないですけど、自分の専門はしっかりと持った上で自分の専門にとらわれない、ということも大切だと思います。自分はここが強みだ、ということをいったん決める、ということも大事だと思いますが、それを完全に固定してしまうと少し「頭でっかち」になるところもあるのではないでしょうか。私は大学生時代「自分は文学部生である前に、阪大生なのだ」ととらえていました。そして、自分の経験の幅を広げることをとにかく意識したのです。CSCDの授業を受けていたのも、自分の専門とは違う授業を受けて、自分とは異なるバックグラウンドを持つひとに出会うということをしたかったからです。せっかく大阪大学という総合大学にいるのだから、その環境を最大限に活用してほしいと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※1)リーダーシップ研修:
市民社会におけるリーダーシップ養成支援。平成19年度文部科学省「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム」採択。「市民社会でのリーダー」開発を目指し、まずクラスやサークルのリーダーとなる学生を重点的に支援し育成するプログラム。平成23年をもって活動終了。
※2)CSCD(コミュニケーションデザイン・センター):
2005年4月に大阪大学内に設置された教育研究機関。専門的知識をもつ者ともたない者の間、利害や立場の異なるひとびとをつなぐコミュニケーションの回路を構想・設計・実践することをミッションに活動していた。2016年6月に活動を終了。
※3)平田 オリザ COデザインセンター特任教授:劇作家、演出家。
※4)森栗 茂一 COデザインセンター教授:交通まちづくり、コミュニティ論。
※ 所属、担当はインタビュー(2018年10月)時点のもの。
(書き手:森川 優子/大阪大学COデザインセンター特任研究員)