授業レポート
集中講義「科学技術コミュニケーション演習」
COデザインセンター開講科目<横断術>
COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。
2018年度、集中講義(夏)に「横断術」として開講された「科学技術コミュニケーション演習」(2018年度担当:平川 秀幸 COデザインセンター教授、工藤 充 COデザインセンター特任講師)の様子をレポートします。
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COデザインセンターが開講している集中講義「科学技術コミュニケーション演習」が、2018年度は9月26日から28日の3日間に行われました。この講義は、多様な研究科の大学院生が受講する講義です。(*1)。
*1)「科学技術コミュニケーション演習」は副専攻プログラム「公共圏における科学技術政策」の履修登録生にとっては必修の講義です。「超域イノベーション博士課程プログラム」の履修登録生にとっても必修の講義です(超域超域イノベーション博士課程プログラムに対しては「社会の中の科学技術」という科目で開講)。もちろん、これら2つのプログラムに登録していない大学院生も受講することができます。
3日間、1つのテーマについて、グループワークを中心にじっくりと議論を重ねます。講義のテーマは例年、現在進行形の科学技術に関する社会的な課題を選んでいます(*2)。2018年度扱ったトピックは、2011年3月の東日本大震災で発生した東京電力福島第一原子力発電所事故による被災地域からの避難と賠償の問題です。
この講義は、必ずしも専門的な知識を身につけることが目的ではありません。テーマに関する議論を重ねることを通じて、科学技術コミュニケーションやその社会的合意形成の重要性と困難さを理解してほしいというのが「科学技術コミュニケーション演習」の趣旨です。
*2)今まさに多様な専門家が議論を重ねている最中で、まだ「答え」が出ていない課題を選んでテーマにしています。過去には、以下のようなテーマを扱いました。「BSE事件に伴って生じたアメリカ産牛肉輸入停止を解除するための条件とは何か」、「原子力発電所から生じる高レベル放射性廃棄物の地層処分の是非について」、「原子力発電所の再稼働に必要な条件について」、「地球温暖化問題に関する市民参加のあり方について」「高レベル放射性廃棄物の地層処分について」
1日目
平川秀幸先生のガイダンスから授業がスタートしました。
その後、グループ内の自己紹介を行いました。これから3日間、同じテーマに取り組む受講生同士、議論しやすい環境を整えます。今回は「マトリクス自己紹介」というゲームスタイルで、テンポよく自己紹介をしていきました。
自己紹介に続いて、平川先生の講義です。グループでの議論を始める前に、科学技術コミュニケーションの方法や目的などについて、過去の事例をふまえながら考えました。
1日目の午後は、今回取り組む課題について考えていきます。東日本大震災に伴う原発事故の避難者が直面し、解決が求められている「問題」を特定・選択し、その解決策を考え、深めてゆくために、グループで議論をしたあと、専門家を招いての質疑応答をおこない、さらに最終的な解決策を「提案」のかたちにまとめていきます。
平川先生から、このテーマについての背景情報の解説がありました。続いて資料などをもとに各自が取り上げたいテーマを選んだところで、グループ討議が始まりました。
グループ内では、各自が設定した問いとその理由などを説明し、お互いに質問などをしながら、グループとして取り組む課題について材料を共有していきました。
2日目
2日目は、ほぼ全てがグループワークです。午前中にグループ内での議論を整理し、午後の発表に向けて準備をしていきます。午後はグループごとに設定した問いを発表し、受講生同士だけでなく教員もコメントをしながら、ブラッシュアップしていきました。
発表に続いて、3日目にお招きしている専門家の方々に聞いてみたい質問をグループごとにまとめて2日目は終了です。問いが深まってくると、議論も活発になり、終了後も残って話し合いを続けるグループもありました。
3日目
3日目は、関連する専門家を3人お招きしていました。文部科学省研究開発局原子力損害賠償対策室次長の山下恭範さん、公害問題や環境被害保障論などを研究している大阪市立大学大学院経営学研究科 教授の除本理史さん、東日本大震災後に放射線汚染と向き合う母親たちを取材しているライターの吉田千亜さんです。
さっそく質疑応答がスタートしました。座談会形式で、グループごとに昨日、まとめた質問シートをもとに質問をしていきました。3人のお話を聞き、何を解決していきたいのかが、より具体的になっていったようです。
午後はグループワークに戻り、午前中の質疑応答をふまえて再度、解決したい問題とその方法についてまとめ、発表へと進みます。
お互いの発表を聞きあいながら受講生同士で積極的に意見を交わしたり、そこに専門家のみなさんからコメントがつけられたりし、受講生、教員、専門家の全員で活発に議論が交わされ、3日間の集中講義は終了しました。
受講生の声(*講義後のアンケートより)
「3日間、限られた時間ではあったが、様々な分野の学生と議論できる機会があってよかった。自分の専門、他の人の専門も生かすことができた。(基礎工学研究科)」
「バックグラウンドの異なるメンバーと3日間、密に熱い議論を交わすことができたことは非常に有益だった。今日のディスカッションの経験は確実に自分のこれからに役立つと確信しています。(理学研究科)」
「3日間にわたって濃密な議論を行えたことは極めて重要な経験だった。知らなかったこと、見えてなかった視点を知ることができ、後の糧となるだろう。(基礎工学研究科)」
(書き手:小林万里絵 COデザインセンター特任研究員)