授業レポート
集中講義「協働術H(表現の場を作る)」(1)
COデザインセンター開講科目<協働術>
COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。
その中のひとつである、2018年度集中講義で展開される「協働術H(表現の場を作る)」(田中 均 COデザインセンター准教授)。シラバスには、
この授業の目的は、「協働術」(さまざまな現場で複数のアクター/プレーヤーとともに支え合い、わかちあい、つくりあうためのアーツ)を学ぶことです。
特にこの授業では、表現活動を通じて社会的課題に向き合う取り組みが行われている現場に入り、町を歩き、ワークショップを経験することを通じて、「表現が行われ、受け入れられる場」を作り、維持することはいかにして可能かを考えます。
この授業の場合、「現場」は、かつて日雇労働者の町として知られ、現在は単身高齢者が多く住む西成区の通称釜ヶ崎地域です。高齢化の進行と周辺地域の再開発とともに、この地域は急速に変化しつつあります。NPO「こえとことばとこころの部屋」(ココルーム、代表・上田假奈代氏)はこの地域で2012年から「釜ヶ崎芸術大学」(釜芸)を開催し、哲学・音楽・詩の講座を通じて、誰もが表現できる場を作り出そうとしています。
この授業では、ココルームとの協力のもと、さまざまな仕方で「表現の場を作る」ことに取り組んできた4人のゲスト・アーティストといっしょに釜ヶ崎の町を歩き、彼らが企画する釜芸の講座に参加し、そこに集う人々と対話します。
と、あります。
いったい、どのような授業なのでしょうか。
2回にわたってレポートする、1回目です。
―――――――
前回のレポートは、こちらからご覧ください。
―――――――
シラバスにあるように、本授業は、釜ヶ崎芸術大学(通称:釜芸)の授業の一部と共同で開催されています。
釜ヶ崎芸術大学(通称:釜芸)
2012 年より大阪市西成区釜ヶ崎でスタート。「学びあいたい人がいれば、そこが大学」として、地域のさまざまな施設を会場にした、ゆるやかな釜芸プロジェクト。天文学、哲学、美学など、年間約100 講座を開催中。近隣の高校や中学校への出張講座を行う。展覧会など:ヨコハマトリエンナーレ 2014、アーツ前橋「表現の森」(2016)、鳥の演劇祭(2016)、大岡信ことば館「釜芸がやって来た!(2017)」招聘。釜芸のウェブサイトはこちらをご覧ください。
NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)
釜芸を運営するアートNPO法人 。2003年、大阪市の現代芸術拠点形成事業に参画し、いまはない新世界フェスティバルゲートで活動スタート。「表現と社会と仕事と自律」をテーマに喫茶店のふりをしながら、さまざまなであいと問いを重ねてきた。2007年に市の事業は終了し、2008年釜ヶ崎の端の動物園前商店街に拠点を移す。2016年同商店街の南に移転し「ゲストハウスとカフェと庭ココルーム」を開所。ココルームのウェブサイトはこちらをご覧ください。
今回は、2018年6月12日の授業についてのレポートです。
講師は、アーティストの深澤孝史さんです。
深澤孝史さん
美術家。山梨県生まれ。
場や歴史、そこに関わる人の特性に着目し、他者と共にある方法を模索するプロジェクトを全国各地で展開。
2008年に鈴木一郎太とともにNPO法人クリエイティブサポートレッツにて「たけし文化センター」を企画。
最近の主な活動として、漂着神の伝説が数多く残る町で、漂着廃棄物を現代の漂着神として祀る神社を建立した《神話の続き》(2017、奥能登国際芸術祭)、八戸のスケート文化の発祥の地であるため池を再現する《堤にもどる》(2017、はっちアーティストインレジデンス)、埋もれた地域の歴史を現代に結びつけ直すことで、市民の主権と文化の獲得を目指す《常陸佐竹市》(2016、茨城県北芸術祭)、里山に民泊し、土地特有の近代化の資料を集めていく《越後妻有民俗泊物館》(2015、第6回大地の芸術祭)、お金のかわりに自身のとくいなことを運用する《とくいの銀行》(2011-、取手アートプロジェクトほか)など。深澤孝史さんのウェブサイトはこちらをご覧ください。
この日の授業は、深澤さんご自身の今までの活動についてのミニレクチャーから始まりました。
「僕は、積極的に自己表現をするというよりは、地域の歴史や課題をリサーチし、それを『今』と結びつけて形にする、ということが多いです。」と自己紹介した深澤さん。
レクチャーの中では、深澤さんによるミニワークショップも行われました。
少し身体を動かして、学生たちの表情もほぐれていきました。
このように、様々な活動を行なっているアーティストの方から直接お話を伺うことができるのも、本授業の大きな魅力となっています。
レクチャーのあとは、一般の参加者の方も加わり、いよいよ授業本編のスタート。
今日の活動について、ココルーム代表の上田假奈代さんと深澤さんが二人でお話しするところから本編はスタートしました。
上田假奈代さん
詩人・詩業家。奈良生まれ。3歳より詩作、17歳から朗読をはじめる。1992年から全国で障がいをもつ人や社会人、子ども対象の詩のワークショップを手がける。2003年にNPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)をたちあげ、現在も「表現と自律と仕事と社会」をテーマに多様な活動に取り組む。上田假奈代さんのウェブサイトはこちらをご覧ください。
今回は、妖怪という切り口から釜ヶ崎という場所に迫っていきたい、と話す上田さん。
上田さん
「今日は、妖怪かるたをつくろうと思っているんです。」
深澤さん
「上田さんからそれを聞いて、そうなんですか、と思って。そういう思考実験にみんなを巻き込むというのが今回の内容です。」
上田さん
「そうやってぐるぐる深澤さんと話をしているときに、深澤さんから『ここに来たばっかりの自分が、この街の人たちのことを妖怪なんて呼べない』という発言があって。私はこの街に15年住んでいるので、微妙に半分くらい妖怪になってしまっている?!と言えてしまうところがありますが、来たばかりだと言えない、というのは、みなさんもおそらくそうなんじゃないかなと思います。
でも、今、釜ヶ崎は大きく変わろうとしてる、その変わり目に立っています。一方それは、ここにずっといる人には分からない。変わり目だと思えるのは、新しい他者です。新しい他者でないと変わり目に気づかない。新しい他者がやっぱり必要なんですよ。」
深澤さん
「僕は、妖怪のことを調べてみました。そうすると、妖怪は場所につくと言われていたり、地方の特性がいろいろあったりするんですね。昔は、人が何か変なことをしたりすると『狐がついた』と表現したりして、つまり、妖怪のせいにして人のせいにしない、というものごとの捉え方があったんです。
僕は、場所の特性を具現化したものが妖怪なのではないか、と思いました。場の力によって人の動き方が変わっていくということ。今の言葉でいうと環境で自分の動きが変わってしまう、ということは、みんなに共通している部分だと思います。
釜ヶ崎についても、ここにいる人たちが自分たちの手で作り上げているものがあります。長い年月をかけてつくった秘伝のスープのような。秘伝のスープの色や匂いのようなものがあると思います。」
上田さん
「釜ヶ崎のおじさんたちから聞いた話や、釜ヶ崎でしか通用しない言葉、独特の風習というものがあるんです。そういう、人の営みのようなものが、多分、この先なくなってしまうんですね。上書きされて。そのあわいに今がある。だから、妖怪はここで出ておかないと、消えてなくなってしまう、と思っています。
妖怪とは、キャラクターのようなものではなく、許しというものに近いと思っています。許しがたいものを許しながら、なんとか折り合っていくというような、そういうものではないかと。自分だったら許せないかもしれないけど、ここは許しているという、場所の力というものが釜ヶ崎にはあると思います。
今日は、その場所の力を見つけてきてもらうということをしたいと思っています。許す、許される、と思った場所を写真におさめて、それをあとでみんなで共有しましょう。そして、かるたの読み札になりそうなものにまとめたいと思います。見て来て、すぐにつくるから、臨場感がある、見た人しかわからない、独創的なものができると思います。」
グループをつくって、釜ヶ崎の街に出かけていく参加者のみなさん。
おもいおもいに、その場の力を感じながら写真を撮ります。
30分ほどの撮影のあと、ココルームに戻ってきました。
みんなでかるたの読み札をつくります。
その後、スライドで撮ってきた写真を共有しながら、読み札を読み合いました。
ちょっとくすっと笑ったり、ほおと感心したりしながら、スライドに見入る参加者のみなさんでした。
―――――――
釜ヶ崎芸術大学では、このようにCOデザインセンターと共同で行なっているプログラムのほかにも、多くのプログラムが用意されています。
興味のある方は、ぜひ釜芸のウェブサイトをご覧ください。
(写真と文:森川優子 COデザインセンター特任研究員)