授業レポート
春学期「対話術A」(後編)
COデザインセンター開講科目<対話術>
COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。
COデザインセンターが開講している春学期「対話術A」は、学部生、全研究科大学院生が受講できる「コミュニケーションデザイン科目」です。
「対話術A」は、髙橋 綾先生(COデザインセンター 特任講師)、ほんま なほ先生(COデザインセンター 准教授)が担当しています。授業では、異なる学年、異分野の人たちとともに、哲学的対話法を学び、わたしたちの身近なことについて問いをたてて探求していきます。少人数での対話ワークを通して対話を実際に「経験」し、対話を通して考えることに親しみ、習熟します。話す、聴く、質問することを中心に、対話をすすめるために必要な基本的態度、スキルを習得することを目指しています。毎回一定の課題のもとに、1〜2時間ほどのグループワークを行なった後、その経験を全員で検討しています。
2018年5月14日、21日の授業の一部を、2回に分けてレポートする後編です。
▶︎前編のレポートはこちらをご覧ください。
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「対話術A」の授業では、参加者も講師も、授業の中で呼ばれたい名前を決めネームプレートを作り、それを前に置いて話し合いをします。髙橋先生の呼び名は「ハカセさん」、ほんま先生の呼び名は「なほさん」です。本授業レポートでは、呼び名で表記しています。
5月14日の授業の前半では、相手の話をよく聞いて、お互いの考えを深めていく練習として「ソクラテスの対話ゲーム」に取り組みました。三人一組となり、質問役(ソクラテス)、答える役(若者)、記録役(プラトン)に分かれ、今回の問い「人間はなぜ他の生きものの命をうばうのか?」についてソクラテスが「問い」を問いかけ、若者が答えるというゲームです。
5月14日は、参加者の皆さんでグループワークについての感想の共有を行ったあと、今度は同じテーマについて全員で話してみることをしました。
「人間はなぜ他の生きものの命をうばうのか?」という問いからスタートして、「命を『うばう』のと、『いただく』のは、同じなのか?違うのか?」という問いについて参加者の皆さんから色々なお話が出るなど、一対一のときとはだいぶん違う話し合いとなりました。
5月14日の授業は、ここで終了となりました。
5月21日
前回(5月14日)の授業全体の振り返りから始めました。ハカセさん、なほさんは、参加者に「質問する人と答える人の一対一(プラス筆記役)で対話をした場合」と「全員で対話をした場合」をふりかえって、どんな違いを感じたか、と問いかけました。
「全体で対話するのも面白かったけど、『対話』ではなく、『議論』になってしまいそうだった。」
「ひとつの話に対して、もっと掘り下げたいと思っても、全員で話すとすぐに話題が変わってしまったりした。少し消化不良だった。もうちょっと突っ込んで聞いてみたかった。」
「一対一のときは、自分が思いついたことしか聞かないというところがあると思う。全員で対話をしたときは、思いもしなかったようなところから問いが出てきたりしたので、どちらが良い・悪いではなく、全員でやったときのほうが新鮮に感じた。」
ハカセさんからは、以下のようなお話がありました。
「私は、『議論』と『対話』は違うと考えていて、ルールの違う全く違うゲームのようなものだと思っています。議論がサッカーであるならば、対話はハイキングのようなものです。議論(サッカー)はスピードが早いのが特徴。勝ち負けを決める、早く結論を出す、などという明確な目標がありますし、個人プレーがきくところもあります。それに対して対話は、みんなで一緒に山に登っていく。いかに歩調をあわせ、迷子になる人、置いてきぼりになる人を出さずに、同じものを見ながら先にすすんで行くか、というところが大切です。
私自身も、自分の言いたいことをばーっと言ってしまう、というところがあります。対話のときは、一対一で話す場合も皆で話す場合も、ゆっくりと話すことが大切です。一生懸命早く先にすすまなくていいのです。今見える風景を楽しめばいい。足もとを見ながら、まわりを見ながらゆっくりとすすめていくことが大切です。
対話の中で異なる考えが出てきた場合、議論のように、自分はどちら側に立つか、どちらが正しいかということを急いで考える必要はありません。Aという意見とBという意見が出た時にその二つは何を意味しているか。AとBはどう違うか、その意見の違いはどこから生まれているのか、AとBは見かけは異なっているように見えるけど、本当はそう違いはないのではないか。対話の中では、意見の違いについて優劣を決するのではなく、いろいろな角度から調べる(吟味する)ことが大切です。
議論が得意な人もいます。対話と議論、どちらが良い・悪いということではありません。違うゲームをやるために自分の習慣のどこを変えたらいいのか、それに気づくことが大切です。」
なほさんからは、以下のようなお話がありました。
「『対話術A』は体験することに重きを置いています。基本は、授業を楽しんでもらうことが大切です。『対話術B』では、『対話術A』で学んだことをさらに深めていきます。
ハカセさんから『対話は山登りのようなもの』というお話がありました。そういう意味では、『こちらの方向に道はあるのか?』ということを考えることも大切です。本当にこの先に道は通じているのか、本当にそっちに行って大丈夫なのか。そういうことを丁寧に確かめながらすすんで行く必要があります。それらをひとつひとつ確認するので時間がかかるのです。だから複数で対話するのは難しい。
人はどうしても、誰かが何かを言ったとき、『その考えにはだめなところがあるんじゃない?』と弱点を掘り起こそうとする傾向があります。ある人が何かを言ったとき、どうしてもその反対のことを言いたくなるのですね。それは悪いことではないのですが、どうして私は反対のことを思いついたのか、それを考える必要があります。違う意見を持ったときに、違う意見を持ったということはOKなのですが、それはどう違うのか、なぜ違うのかということを考えます。そうすると、『離れ』ない。共通の関心が生まれてくる。そうすると、大人数で話をしていても、あとから見ると一本の道をすすんでいた、ということになる。それは『対話』となります。ただそれは、理屈でわかっていても意味がなくて、自分で実際にできるようになる、ということが大切です。
これらは、難しいことではありません。私たちは『こどものてつがく』でこどもたちとこういった対話をしています。大人になって対話が難しくなるのは、むしろ『単純なこと』だからかもしれませんね。」
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▶︎前編のレポートはこちらをご覧ください。
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ハカセさんの「ゆっくりと、足もとを見ながら、みんな一緒に山道をのぼるのが『対話』」という言葉が印象的な授業でした。
COデザインセンターが開講する秋学期「対話術B(哲学対話進行法)」では、本授業「対話術A」で学んだことをもとに、他の人たちとともに対話による探究をすすめるための進行法を身につけます。興味のある方はぜひシラバスをご覧ください。
(書き手:森川優子 COデザインセンター特任研究員)