大阪大学
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授業レポート

2018年6月13日(水) 公開

授業レポート
春学期「対話術A」(前編)
COデザインセンター開講科目<対話術>

COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。

今回は「対話術」として開講されている「対話術A」についてレポートします。

COデザインセンターが開講している春学期「対話術A」は、学部生、全研究科大学院生が受講できる「コミュニケーションデザイン科目」です。

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本授業「対話術A」は、COデザインセンターのカリキュラムにおいて「対話術」に区分されています。対話とは、一つのことに向かうのでも(合意)、二つ以上に分裂するのでも(対立・対決)、また、優劣を競うのでも(討議)、妥協点を目指して説得するのでも(交渉)なく、ことばを通して互いに違いを見つめ、その違いの意味するものをシェアしていく経験です。つまり、違いのなかにじぶんと他人との<つながり>を見いだし、頭とからだの両方を使って、その<つながり>をともに探求していくことです。


今回は、2018年5月14日、21日の授業の一部を、2回に分けてレポートします。


▶︎後編のレポートはこちらをご覧ください。


5月14日

「対話術A」の授業では、参加者も講師も、授業の中で呼ばれたい名前を決めネームプレートを作り、それを前に置いて話し合いをします。

今回の授業は、「ハカセさん」(髙橋先生の呼び名、以下、「ハカセさん」と表記)、「なほさん」(ほんま先生の呼び名、以下、「なほさん」と表記)も含めた参加者全員で輪になり、簡単な質問について全員で答え、話すことからスタートしました。5月14日の質問は「この一週間のあなたの身体のセーフティについて教えてください」(セーフティはこの授業の重要な考え方の一つです)でした。毛糸のボールを持った人が順番に、思い思い話をしました。


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なほさんは、授業の最初に円になり、全員が同じ質問に答えるというこのプロセスは「関心の共有」なのだと言います。


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「たとえば散歩に行くと、目の前にあるものを一緒に見たり、一緒にひとつの音を聞いたりすることで、共通の経験を持つことができます。しかし授業の場合は、参加者それぞれが別々のことを考えている状態で授業にやってきます。

最初にみんなで輪になって話すことは、これから対話に入るというときに、息を整えるようなもの。自分が息をしていることに気づくのも大切なことだし、他の人の自分とはずいぶんとリズムの異なる息に気づく、ということも大切です。最初にみんなで輪になって話すことは、お互いの調子を整えるという意味があるのです。」


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今日の授業も、息を整えたところで、ワークが始まりました。
本日のワークは、「ソクラテスの対話ゲーム」。相手の話をよく聞いて、お互いの考えを深めていく練習です。


<ゲームの手順>

1)三人組を作る。

2)質問役(ソクラテス)、答える役(若者)、記録役(プラトン)に分かれる。

3)若者が問いについての答えを一つ選ぶ。
  今回の問い:「人間はなぜ他の生きものの命をうばうのか?」

4)ゲームをはじめる。ソクラテスが「問い」を問いかけ、若者が答えるところから始まる。

6)ソクラテス役は、相手の発言に対する反論を差し控え、相手の意見をよく聞いて、相手がよって立っている前提や定義を問う質問をする。若者役は、自分が選んだ答えを最後まで粘り強く弁護する。プラトン役は、ソクラテス役と若者役の対話の記録をとる。

7)ゲームの後で、どんな対話になったかをプラトン役を中心に話し合う。


ゲームを始めるにあたり、ハカセさんより
「ゆっくりと対話がすすむようにしましょう。時間はたっぷりあります。時間をかけることは悪いことではありません。」
とゲームの進め方についてのアドバイスが伝えられました。


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なほさんからのアドバイスは
「相手の考えていることに沿って質問していかないと、うまく答えられないですよ。反論するのではなく、質問するのですよ。」
というものでした。


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参加者の皆さんは、アドバイスを受け、ゆったりと質問し、それに対して答えているように見えました。


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皆さんの間を、ハカセさんやなほさんがスーパーバイズをしてまわります。それぞれのグループは、記録役(プラトン)の記録にそって、質問の内容について感想を言い合ったり、振り返りをしたりします。


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ワークが終わったあと、参加者の皆さんで感想の共有を行いました。

「質問する人(ソクラテス)」、「答える人(若者)」に、「記録する人(プラトン)」が加わったことで、「記録する人」が書き取れるように、なるべくゆっくり質問するように意識した。

「記録する人」のとき、記録しながら聞いているせいか、今何の話をしているのか、質問している人が何を質問したいと思っているのか、答える人は何を答えたいのか、ちょっと冷静に聞けるな、と思った。


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ここで、なほさんより
「質問と答えという口頭のやりとりだけをとおしてものごとを考えていくには、工夫が必要です。私たちは日頃『書く』ことを習慣づけられているので、記憶だけを頼りに質問と答えをするということ自体が難しい。文字に依存しないで考えを組み立てるということにコツがいります。」
というお話がありました。

さらに、参加者の皆さんから意見が出ました。

「自分が『質問する人』のとき、相手の答えから自分の質問をつくる、というのが難しく感じた。前の答えの内容からシンプルに質問する、ということができず、全然違う問いをしてしまう、ということを繰り返して、うまくいかなかった。」

「『答える人』のときは、質問と質問の間で、次にどんなことを聞かれるのかな、と、余裕を楽しんでいた。でも、『質問する人』のときは、早く質問しなきゃ、と焦ってしまって、質問することに没頭してしまい、余裕がなかった気がした。」

「『質問する人』が難しい。どうしても相手の答えの矛盾を追求したくなってしまう。『それは違うんじゃないか』と言いたくなる気持ちをぐっとおさえる必要があった。」


なほさんからは
「まずは、このゲームを楽しむ方法として、相手の答えのだめなところを探すのではなく、相手の答えの面白さはどこにあるのかを探究していく、ということも大切です。」
というお話がありました。


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レポートは、次回に続きます。


▶︎後編のレポートはこちらをご覧ください。


(書き手:森川優子 COデザインセンター特任研究員)

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