授業レポート
春学期「科学技術イノベーション政策概論A」
COデザインセンター開講科目<横断術>
COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。
今回は「横断術」として開講されている「科学技術イノベーション政策概論A」についてレポートします。
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COデザインセンターが開講している春学期「科学技術イノベーション政策概論A」は、全研究科大学院生が受講できるCOデザイン科目(*1)です。
(*1)
この「科学技術イノベーション政策概論A」は、COデザインセンターのカリキュラムにおいては、横断術に区分されています。専門分野で培った知識を社会の様々な場で活かすためには、専門知のみならず汎用性の高いスキルが求められます。具体的には、異分野の専門家や非専門家・市民とのコミュニケーション、多様なメンバーのもとでのチームワーク、プロジェクトマネジメントなどといったスキルがあげられます。横断術では、専門知と汎用力(たとえば対話術や協働術)を結びあわせるために、自身に必要なトランスファラブル(転用・応用可能)なスキルを見出し、習得向上を目指します。
- 科目名:科学技術イノベーション政策概論A(横断術)
- 実施日:2018年4月11日(水)、4月25日(水)、5月9日(水)、5月23日(水)、6月6日(水)それぞれ5&6限
- 場所:大阪大学(豊中)全学教育推進機構 全学教育推進機構ステューデントコモンズ2階セミナー室 A
- 履修登録:13人
科学技術がどのように発展し、どのように成果が利用されるか、どのようにして社会・人間にとって望ましい成果を生み出すかは、科学技術の研究開発や関連する政策における重要課題です。この科目のねらいは、科学技術やイノベーションの「望ましさ」をどう実現したらよいか、そのためにはどのような問題を研究開発や政策形成において考えなくてはならないかを、科学技術の「倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues: ELSI)」の観点から、多角的に学ぶことです。授業のスタイルとしては、ゲストの専門家による講義(90分)と討論(90分)を行うというものです。
春学期「科学技術イノベーション政策概論A」では、特に、ELSIに関する研究や政策が最も早くから行われてきた生命科学を取り上げています。
全8回(5日間)のスケジュールと担当教員/ゲスト講師は次の通りです。
- 第1回(4月11日):ガイダンス
平川 秀幸(大阪大学COデザインセンター 教授)- 第2・3回(4月25日):ゲスト講師による講義&討論「ゲノム研究をめぐる倫理的問題」
三成 寿作(京都大学iPS細胞研究所 特定准教授)- 第4・5回(5月9日):ゲスト講師による講義&討論「臓器売買をめぐる倫理的問題」
島薗 洋介(大阪大学グローバルイニシアティブ・センター 講師)- 第6・7回(5月23日):ゲスト講師による講義&討論「生殖医療をめぐる法的問題」
小門 穂(大阪大学大学院医学系研究科 助教)- 第8回(6月6日):総合討論
平川 秀幸(大阪大学COデザインセンター 教授)
以下、第1回(4月11日)と第2・3回(4月25日)の様子を簡単にご紹介します。
第1回(4月11日)
第1回(4月11日)は、この科目の担当教員である平川秀幸教授が、「科学技術政策とELSI」と題したガイダンスを行いました。
「科学技術イノベーション政策概論A」と「科学技術イノベーション政策概論B」は、STiPS(大学院副専攻/大学院等高度副プログラム「公共圏における科学技術政策」)の必修科目になっている科目でもあることから、STiPSの紹介も含めたガイダンスになりました。
公共圏(public sphere)や、科学技術政策、ELSIという単語は、普段はあまり目にしない言葉かもしれません。これらの言葉が使われ始めるようになった起源やその意味などの説明がありました。
第2・3回(4月25日)
第2・3回(4月25日)は、ゲスト講師をお迎えして行う最初の回でした。この日は、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)上廣倫理研究部門の三成寿作先生をゲスト講師としてお招きしました。
前半90分は、ゲスト講師による講義です。健康・医療分野に関する政策やそれに関連する法律について、そして、医療分野の研究開発に関する事業を行う機関である日本医療研究開発機構(AMED)についてのお話がありました。特にその中でも、ゲノム情報をめぐる研究の発展とその影響について、詳しい解説をしていただきました。
後半90分は、受講生が3つのグループに分かれて行うディスカッションです。講義を聞いて学んだことをより深めるための時間です。この科目の受講生は、文学研究科、生命機能研究科、医学系研究科、基礎工学研究科など、文理を問わず様々な専門分野を学ぶ大学院生です。多様な視点からのディスカッションが醍醐味の1つ。
この日のテーマは、「先端生命科学技術研究を社会に適用するにあたって、どのようなことを事前に考えて実行してゆくべきか?」また、「先端生命科学技術研究のあり方を問う上で社会の声は必要か?必要であるとするのであれば、現在の試行は適切か? どのような課題、対応が望ましいか?」というものでした。グループごとに、具体的な技術を設定し、1)どのような問題を、2)誰が、3)どのように、考えるのがよいか、ということについて話し合いました。
グループディスカッションの後は、各グループで話し合った内容をそれぞれに発表してもらい、そこから教員も混ざっての活発な全体ディスカッションが始まりました。最後は三成先生からのコメントで授業を締めくくっていただきました。
この日のコメントシートには、以下のような感想が書かれていました。
「考えれば考えるほど、別の視点や問題点が生じ、想像以上に話の幅が広がった。同じ問題でも切り口を変えると全く違った意見が出るのが良かった。(理学研究科)」
「『良い悪いではない』『はっきりするものではない』という言葉がなんども出てきたことが印象に残っている。(文学研究科)」
「全く違う分野(法律、倫理)と自分の分野(科学技術)をつなげた話を聞く機会はほとんどなかったので、とても興味深い話だった。(生命機能研究科)」
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2018年度、春学期に続いて行われる夏学期「科学技術イノベーション政策概論B」では、深層学習などの技術発展により急速に社会(産業・ビジネス・日常生活等)を変えつつある人工知能技術やビッグデータ利用など情報科学技術を取り上げます。授業の詳細やスケジュールは、KOANに掲載されているシラバスを確認してください。
(書き手:水町衣里 COデザインセンター特任助教)