授業レポート
集中講義「科学技術コミュニケーション演習」
COデザインセンター開講科目<横断術>
COデザインセンターでは多様な授業が開講されています。
2017年度、集中講義(夏)として実施された「科学技術コミュニケーション演習」。2018年度は「横断術」として開講されます。
いったい、どのような授業なのでしょうか。
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COデザインセンターが開講している集中講義「科学技術コミュニケーション演習」(担当:八木絵香、工藤充、水町衣里)が、2017年度は9月25日から27日の3日間に行われました。この講義は、多様な研究科の大学院生が受講する講義です(*1)。
*1)「科学技術コミュニケーション演習」は、副専攻プログラム「公共圏における科学技術政策」の履修登録生にとっては必修の講義です。超域イノベーション博士課程プログラムの履修登録生にとっても必修の講義です(超域イノベーション博士課程プログラムに対しては「社会の中の科学技術」という科目名で開講)。もちろん、これら2つのプログラムに登録していない大学院生も受講することができます。
3日間、1つのテーマについて、じっくりと議論を重ねます。講義のテーマは例年、現在進行形の科学技術に関する社会的な課題を選んでいます(*2)。
今年度のテーマは「高レベル放射性廃棄物の地層処分」。「この先、仮に現状の国策通りに進展するとした場合、具体的な地域の選定はどのように進めるべきか(もしくは、というより本質的には、そもそも論として現状の政策にどのような課題がありどう転換すべきか)」について、3日間かけて議論を行いました。
この講義を通じて、高レベル放射性廃棄物について詳しくなってほしい、というわけではありません。テーマに関する議論を重ねることを通じて、科学技術コミュニケーションやその社会的合意形成の重要性と困難さを理解してほしいというのが演習の趣旨です。
*2)今まさに多様な専門家が議論を重ねている最中で、まだ「答え」が出ていない課題を選んでテーマにしています。過去には、以下のようなテーマを扱いました。「BSE事件に伴って生じたアメリカ産牛肉輸入停止を解除するための条件とは何か」、「原子力発電所から生じる高レベル放射性廃棄物の地層処分の是非について」、「原子力発電所の再稼働に必要な条件について」、「地球温暖化問題に関する市民参加のあり方について」
この講義の主なねらいは以下の4点です。
・専門分野ごとの、視点の多様性を理解すること
・自分とは異なる分野に対する謙虚さをもつこと
・"素人"とされる人々の視点も理解すること
・「社会の中の科学技術」という視点を理解すること
3日間のスケジュールは次の通りで、グループワークを中心に進めました。
- 1日目
ガイダンス・自己紹介
テーマに関する背景情報の共有(講義)
グループワーク1:専門家への質問の作成
専門家とのディスカッション - 2日目
グループワーク2:前提条件の整理
中間報告
グループワーク3:議論の焦点を絞る - 3日目
グループワーク4:発表準備
発表
ゲストからの講評
以下、各コーナーの詳細です。
1日目
八木絵香先生のガイダンスからこの授業はスタートしました。その後は、グループ内の自己紹介。これから3日間、同じテーマに取り組むチームのメンバー同士、議論しやすい環境を整えます。今回は、「マトリクス自己紹介」というゲームスタイルでの自己紹介を体験してもらいました。
自己紹介の次は、八木先生のミニ講義です。議論を始める前に、今回のテーマを議論するにあたり、最低限知っておいたほうがよい背景情報の解説がありました。
1日目の午後は、専門家を2人お招きしていました。吉田英一先生(名古屋大学)と寿楽浩太先生(東京電機大学)です。お二人とも、経済産業省関連のワーキンググループ(総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 放射性廃棄物ワーキンググループ)のメンバーです。
午後の最初の2時間は、「このお二人の専門家に、どのような質問でも答えてもらえるとしたら何を聞きたい?」ということを、グループごとに検討しました。
午後の後半戦は、いよいよ吉田先生、寿楽先生の登場です。先生方には、学生さんたちがグループごとに考えた質問に答えていただきます。1つのグループに割り当てられた時間は45分。この疑問は是非解決したい!というものから優先的に聞いていきます。「有識者会議のメンバーは誰がどのように選出するのでしょう?」「専門家の責任はどの範囲まで?」どの班も割り当てられた時間が足りなくなるぐらい白熱した質疑応答の時間でした。
2日目
2日目は、ほぼ全てがグループワークの日です。午前中にはまずグループごとに前提条件の整理をしました。八木先生から提示された前提条件を参考にしながら、グループごとにどういう方向で議論を進めることにするのか、を確認しました。
午前までの議論の流れを全体で共有し、他のグループからの質問や、教員からの質問を受けました。受けた質問やコメントを元に、グループ内でこれから議論を進める方向を絞っていきます。
その後は、グループごとの作業時間。徐々に、3つのグループの特色が出てきました。明日の午後には、グループで出した結論を発表します。
3日目
3日目の午前は、午後の発表のための準備作業です。議論の細部をつめます。時折、教員がグループの状況を聞きに回って、まだ言語化されていない部分や説明が足りていない部分、もっと掘り下げて考えて欲しい部分などを、アドバイスしました。
14時すぎから最終プレゼンテーション。この授業のお題「この先、現状の国策通りに進展するとして地層処分が行われる具体的な地域の選定はどのように進めるべきか(もしくは、というより本質的には、そもそも論として現状の政策にどのような課題がありどう転換すべきか)」に、3つのグループがどのように取り組んだのか、それぞれが出した結論を述べる時間です。
この時間には、経済産業省・資源エネルギー庁で放射性廃棄物を担当されている方などをお招きしていました。3つのプレゼンテーションへの講評をいただいて、3日間の集中講義は終了です。
受講生の声(*講義後のアンケートより)
「理系以外の研究を専門的に行う人の意見やものの考え方が非常に新鮮だった。頭で分かっている前提を明らかにし、全員で言語化し、共有することの大切さを改めて実感した。(生命機能研究科)」
「授業に参加するまではこんなディスカッションは難しいのではないかと考えていたが、レクチャーや実際の専門家との対話の場が提供されることにより、具体的なところまでリアリティーをもって考えることができた。(歯学研究科)」
「定量的なデータだけが説得の材料になるわけではなく、互いの人間性、信頼が大切であるということが印象的でした。(工学研究科)」
「議論のすすめ方、意見の伝え方の違いによって、同様の意見の人でも導かれる結論が違うと思った。(医学系研究科)」
「授業デザインが素晴らしかった。ユニークな自己紹介から始まり、初日の最後には交流会が行われた。同じグループだけでなく、他のグループ、教員ともお話ができ、非常に有意義な授業でした。またテーマも専門外のものだったが、おもしろく、新たな研究アイディアも生まれた。(人間科学研究科)」
「自分の専門性を表現するときには、単に知識だけではなく、考え方の特徴も使うことができるということが学べました。(理学研究科)」
(書き手:水町衣里 COデザインセンター特任助教)