デロイト トーマツ コンサルティング
藤原 森さん インタビュー
「その時でなければできないこと」をCSCDで経験できた
COデザインセンターで様々に展開される授業や活動。それらに関わった方々が、その後どのように歩みを進めるのか。卒業生の方々にインタビューするシリーズです。
今回は、藤原 森 さん(デロイト トーマツ コンサルティング)にお話を伺いました。
藤原 森 さん
大阪大学経済学部 2013年3月修了
デロイト トーマツ コンサルティング 合同会社
国内大手素材メーカー勤務を経て、2017年7月より現職
池田さんの授業をもう一度受けてみたい
― 現在のお仕事の内容を教えてください。
藤原さん:
主に人事に関するコンサルティング業務を行っています。お客様の業種は様々です。
現在の会社に勤める前は、ある大手化学系素材メーカーで人事を担当していました。人事の領域についてもっと知識やスキルを深めたいと思い、1年ほど前に転職して、現在に至ります。
― 転職を経験されたのですね。転職してみて、どのようなことを感じましたか。
藤原さん:
今の仕事の中では、「私自身がどうしたいか」ということを常に問われます。自分の能力や工夫によってどう価値を出すか、ということが求められるので、以前に比べて一層「自分はどう考えるだろう」「自分だったらどうするだろう」と思考するようになりました。一方で「自分の思い」が強くなるにつれ、周りの人からのアドバイスや指導をうまく取り入れるということが難しくなるな、とも感じています。言われたとおりにやるだけでは意味がないですし、かといってアドバイスを吸収せずにいると新たな視点に気づく可能性が低くなってしまいます。それはもったいないですよね。
周りからのアドバイスを「私の視点とは違う視点から見た別の案」と捉えるようにしています。アドバイスがあるからこそ気づく、ということがあります。自分でゼロから何かを作るのは難しい。もしかしたら、一人で全てをゼロから作る必要はないのかもしれない。人と対話しながら作る、というのも良いやり方だと思います。
実は今、そういうことをもっと意識して、池田さんの授業をもう一度受けてみたいな、と思ったりしているんですよ。
― 藤原さんは学部生時代、CSCD(※1)で池田光穂先生(※2)の授業を受けていたのですよね。
藤原さん:
そうなんです。池田さんの授業を受けたことについて、大学生の時の自分に「よくやった」と言いたいです。池田さんの授業は私にとってとても良い経験でした。
藤原さん:
自分が知らないことや気づいてないことについて教えてくれる人、こんな別の枠組みもあるよということを言ってくれる大人、そういう人と出会えるというのがCSCDの最大の魅力だったな、と思います。CSCDでは、自分なりの枠組で活動している方と出会うことができました。
CSCDの先生方も明らかに「普通の」大学の先生とは違っていたんですよね、私から見ると。今、頭の中に池田さんの顔を思い浮かべながら話をしているのですけれど(笑)。
私は「この道だ!」と決めて、その道を真っ直ぐコツコツ進むという思考が強いと自分で思っているのですが、大学受験を経て大学に入った当時はその思考が今よりももう少し強かったと思います。もし仮に私みたいな人がいたら、自分の視線をちょっと外したり、今自分が持っている考え方とちょっと違う考え方もあると気づいたりするきっかけとして、ぜひ池田さんの授業を受けることをおすすめしたいです。
本質的な問いに対しては、その都度必死に考える
― 授業について特に印象に残っているのはどのようなことですか。
藤原さん:
覚えているのは、学部生から社会人まで、いろいろな背景を持った人が円になって座って、一緒になって池田さんの投げかけるテーマを議論する光景です。簡単に答えが出るような問いかけではなくて、その場にいる全員がウンウン悩むのです。
そんな中で誰かが何か言葉を紡いだら、それを聞いた池田さんが満面の笑みで「おもしろいねー。でもさ、こういう場合はどうだろうねー?」と、さらに問いをなげかける。そしてまたみんなウンウン唸る。そういうことが何度も何度も繰り返される。
私はそれを見て「どうやら世の中というものは、一筋縄で答えが出せるようなものではなく、いくら経験を積み重ねたとしても、何か本質的な問いにぶつかったときは、その都度必死に考えなければならないのだな」と感じたことを覚えています。
池田さんがすごかったのは、「君の考え方はこの枠組みで話をしていて、僕が言った今の意見はそれじゃないこういう枠組みの話だよ」という、そういうコミュニケーションを常にしてくださったことですね。これは全てじゃない、色々あるなかのひとつだから、というスタンスをいつも示してくださっていた。
今になって「あれはすごく大事なことだった」と気づく経験
藤原さん:
池田さんの授業に出席していると、言いたいことがいろいろ心の中に生まれてくるんです。それは喉元まで出かかっているけれども、なかなかうまく話せない、ということが多くありました。授業の帰り道でいつも「もうちょっとこう言いたかったな、でも言えかったな」と思っていた気がします。今授業に出ても、また同じように思うような気もしますけど、もうちょっと言いたいことが言えるかもしれないな、とも思います。
その当時の私にははっきりわかっていなかったけど、今になって「あれはすごく大事なことだったんだな」と気づくことは確かに多いですね、CSCDの授業は。何故でしょうね。
―その時は気づかないけど、後で気づく。それはとても大切な経験ですね。
藤原さん:
大学はそういうところなのでしょうね、そもそも。
今は気づかないかもしれないけど、後でこういう考え方もあるんだと気づく、という経験って、私の中では「ポイントのように自分の中に貯めておく」というイメージなんですよ。ポイントを貯めて、どこか一定のポイント数を超えた瞬間に、大きく成長する、というイメージ。そういう意味で、CSCDでの経験はとても良かったと思います。私にとってポイントを貯める機会だったな、と思います。
私は経済学部で経営系の勉強をしていたので、戦略論や組織論について学ぶ機会がありました。それは当時から面白くて、そこで学んだフレームワークを物事を考える最初のたたき台としては利用するのは今もとても役に立っています。特に学生時代に学んだ統計学はすごく面白かったですし、今も大好きです。今も勉強を続けつつ、仕事でも大いに活用しています。
藤原さん:
一方で、池田さんの授業で学んだことは、それとはまた少し違うもので、その場にいないと経験できないものだったと思います。知識を得るということであれば、やろうと思えばいつでも、一人ででも、できる。でも、その時でなければできないこと、自分一人ではできないことを、池田さんの授業の中で経験できた、と今あらためて感じています。
※1)CSCD(コミュニケーションデザイン・センター):
2005年4月に大阪大学内に設置された教育研究機関。専門的知識をもつ者ともたない者の間、利害や立場の異なる人々をつなぐコミュニケーションの回路を構想・設計・実践することをミッションに活動していた。2016年6月に活動を終了。
※2)池田 光穂 COデザインセンター教授:
医療人類学、中米民族誌学。
※ 所属、担当はインタビュー(2018年5月)時点のもの。
(書き手:森川 優子/大阪大学COデザインセンター特任研究員)