「協働術A(アクションリサーチの理論と実践)」
受講生インタビュー(鎌本直也さん)
インタラクティブなCOデザインセンターの授業がおもしろい
COデザインセンターには、「協働術A(アクションリサーチの理論と実践)」という授業があります(※1)。シラバスには「この授業は、アクションリサーチの理論と実践、このリサーチがもたらす最終的な成果とはなにかについて考えます。この授業はアクションリサーチをさまざまな角度から考察することを目標にします。」とあります。
いったい、どのような授業なのでしょうか。
2017年度にこの授業を受講した鎌本直也さんにお話を伺いました。
話し手:
鎌本 直也さん 理学研究科生物科学専攻修士2年生
そもそも「生活する」とは、一体何なのか
ー最初に、鎌本さんのご専門について教えてください。
鎌本さん:
理論生物学が専門です。形態形成から進化まで、様々なスケールの生命現象を数理モデルに基づいて理解しようという分野です。金子邦彦さんの『生命とは何か』という本を読んで興味を持ち、「真理の探究に一番近いことをやりたい」と思ったのが、僕が阪大大学院に進学したきっかけでした。
しかしその後、いろいろな経験を通して「自分は人間なのだ」という感覚を強く持つようになりました。今は、どちらかというとそちらをより追求したい、という気持ちが強くなってきています。今は、周りの人との関係や日々の出来事から感じることのような「そもそも『生活する』とは一体何をしていることなのか?」ということについて考えることがおもしろい、と感じています。
ー鎌本さんご自身の興味や関心が変化してきているのですね。
鎌本さん:
例えば、周りの人が楽しんでいるのに全然自分は楽しくない、ということがなぜ起きるのか。周りの人が楽しいと感じるのは何故なのか自分にはわからない、と感じることがあるのはなぜなのか。そういうことが気になってきたのです。私はその場やその時間を楽しみたいので、どうやったらより楽しめるのかと考えます。
それは、本間さん「対話術A(哲学対話入門)」(※2)の授業の影響もあります。授業の中で、「居心地が悪いと感じる場はどのような場か」「発言がしにくい場はどのような場か」ということについて考える機会がありました。
私はCOデザインセンターの授業がすごく好きです。先生と受講者の間で対話があって、インタラクティブに授業が進んで行くというのが好きなのです。
阪大に来てよかったと、ずっと思っている
ーCOデザインセンターの授業で、他に印象的だった授業はありますか。
鎌本さん:
池田先生の「協働術A(アクションリサーチの理論と実践)」(※1)の授業です。授業との出会いは偶然でした。たまたま授業のスケジュールを確認したら、「あ、まだこの授業に間に合う。これはいいタイミングだ。」と思って、それで出席したのです。
授業の内容は『マクロウィキノミクス』という800頁ほどの翻訳書を2章くらいずつ毎回読んできて、感じたことや考えたことを先生と受講生皆で3時間ひたすら出し合う、というものでした。
ー授業の雰囲気はどのようなものだったのですか。
鎌本さん:
出席者同士がフラットな関係で議論をしている、と感じました。もちろん受講生と池田先生の間に知識の差はあるのですが、その場で何かを聞いて、それについて考えるということに関しては、とてもフラットでした。池田先生が手加減してくださっていたとは思うのですが。私が何か意見を言った場合、いろいろな知識でそれに反論される時ももちろんあるのですが、「それにはこういうふうな例があって」と、私の言いたいことをサポートしてもらえる時もありました。自分の発言が今までの「世界」の文脈ときちんと繋がるような感覚で、とても面白いと思いました。
ー他に授業の内容で印象的だったことはありますか。
鎌本さん:
授業の最終回が特に一番印象に残っています。本も読み終わって、まとめもした後、でもあと1コマ残っていて、軽く食事でもしながら話そう、と池田先生が提案しました。結局それには私ともう一人の学部生しか来なかったのですが、とりとめなく「これからどうするの」とか、「これまでどんなことをしてきたの」とか、授業の内容にはそれほど関係なく池田先生と話しました。それで5時間くらい話したのだったかな。そして、その最後の方に、クリフォード・ストール氏のTEDでの講演の動画(※3)を観ました。彼が跳んだり跳ねたりしながらプレゼンテーションするのです。
そのプレゼンの最後に、ストール氏が話したエピソードがありました。ある時大学に行ったら、ちょうど学生運動が盛んな時で、警察が来ていて、自分は何もしていないけれど警察に追いかけられた、と。その時彼はその大学の時計台によじ登って、一番上にある鐘まで登り着き、その鐘に刻まれていた人間と学問についてのメッセージを読んだ、という話です。
ストール氏のその動画を見た後、池田先生と話をしていたら、なぜかその時突然、初めてダイレクトに「池田先生がそれまでの15回分の授業で私たちに伝えたかったこと」を理解したような気がしました。「そうか、池田先生はそういうことが言いたかったのか」と感じたのです。その感覚それ自体を言葉で表すことはできないのですが、その内容は、「大学で楽しいことがやりたい」というようなことです。その強い意思のようなものを、言葉としてではなく、実感しました。
ここまで対話形式の授業を15回重ねてきて、さらにもっと、このようなカジュアルな場で5時間も話して、それでやっとこういった実感が得られるのだな、と私は思いました。シラバスに書いてある授業の内容とは関係ありませんが、受講して良かったと強く感じたのがその瞬間でした。
ー「そういうことが池田先生は言いたかったのだ」と。
鎌本さん:
私がその時それを実感した、ということです。もちろん池田先生は授業の中でずっと言葉では語っていらっしゃるのですが、でも「まあそうなのかな」くらいの私の感じ方だったのです。それが、その時に何か「ジャンプした」ような感覚がありました。それがとてもおもしろかったのです。これはこの授業でしか得られないものだったと思います。
私は、この授業も含めて、どの瞬間を取っても、阪大に来て良かったとずっと思っています。阪大生にはおもしろい人は少ない、と言う人も中にはいますが、でもやはり個人個人を見たらおもしろい人はいます。そういう人達がCOデザインセンターに集まってきていて、そういう人と出会えた、と感じています。自分の中で色々な変化があって、それによって私の中のものごとについての取り組み方がどれだけ変わったかということが、私にとってはとても重要なことなのです。
自分の力で生きていくために
ー今後やってみたいと思っていることについて教えてください。
鎌本さん:
私自身のことを考えると、困ったことに、誰かに何かを「やりなさい」と言われると絶対できないタイプなのです。研究でも何でもそうなのですが、ちょっとでも人から何かを「やらされる」と感じるとできなくなってしまう。だから、将来的に自分の力で何かをやって生きていかなければいけない、ということを、この頃考えています。
とはいうものの、私自身まだまだ探索中で、これだ!というものを決められていません。とりあえず少しでも興味がでたことに関しては足を突っ込んでみることにしています。
最近は、あるNPO法人の活動を手伝いながら共同生活するという試みをスタートしようと計画しています。地域のコミュニティ形成支援を行なっているNPOです。
こういったことをやってみようと思うようになったのは、COデザインセンターの授業で、マイノリティ、そしてマジョリティと呼ばれる人たちについて学んだことがきっかけの一つになっています。多様な人間が暮らす中で、その最頻値をとってきてそれが全てだと認識してしまうと、どれだけ困る人たちがでてくるのか、ということ気付きました。だからと言って自分が大々的に何かをしなければならない、と考えているのではないのですが。
色々な経験を通して、私自身がどういう風に生活をしていけば幸福感を感じることができるか、というようなことがだんだんとわかってきたように感じています。その結果、私自身のエネルギーをそちらの方に向けてみようと考えるようになったのだと思います。
<所属、担当はインタビュー(2017年8月)時点のもの。>
※1:「対話術A(哲学対話入門)」:時間割コード3B1101
異なる学年、異分野の人たちとともに、哲学的対話法を学び、探究を行う授業。
さまざまな対話法に触れながら、話す、聴く、質問することを中心に、
対話を進めるために必要な基本的態度を習得することを目指します。
※2:「協働術A(アクションリサーチの理論と実践)」:時間割コード3B1501
アクションリサーチの理論と実践、このリサーチがもたらす最終的な成果とはなにかについて考える授業。
アクションリサーチをさまざまな角度から考察することを目標にしています。
科目の詳細は「COデザインセンター履修案内」のページからご覧ください。
科目名をクリックすると、シラバスを見ることができます。
※3:クリフォード・ストール氏のTED動画:こちらをご覧ください。
(書き手:森川 優子/大阪大学COデザインセンター特任研究員)