阪大フェスタ
セッションA:未来の「デザイン」を考える
未来に向けた共創のあり方を考える
2017年3月23・24日にヒルトン大阪にて行われた「阪大フェスタ」では、以下の多彩なセッションが行われました。
[A]企業による講演セッション(未来の「デザイン」を考える)
[B]企業による人材育成紹介セッション(未来の「働き方」を考える)
[C]本学の教員や学生による研究紹介セッション(未来の「問い」を考える)
[D]学部・研究科などによる大学活動紹介セッション(未来の「大学」を考える)
[E]産学共創ワークショップ(未来の「学び」を考える)
今回は、セッション A について、澤田 莉沙 さん(大阪大学大学院 生命機能研究科 パターン形成研究室/ヒューマンウェアイノベーション博士課程プログラム 一期生)の参加レポートをご紹介します。
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20年後の未来はどうなっているのだろう?そのような問いに、名だたる企業達はどのように考えているのだろうか。本セッションでは、それぞれの企業が世界の未来をどのように描き、企業としてどのような関わり方を目指していくのかについて語られた。
(1)未来におけるクルマの在り方

陶山和夫 氏トヨタ自動車株式会社 コーポレート戦略部未来プロジェクト室
前職はコンサルティングファーム。製造業を中心に担当する中、モノづくりの世界に魅かれ、お客様を笑顔にするまでの一連に携わりたいという想いから、2006年にトヨタ自動車に入社。商品企画部にて、中期商品計画策定に従事。2012年より現部署。モビリティ社会の新価値創造を目指し、コンセプト立案から具現化まで取り組む。
本セッションは、トヨタ自動車株式会社 コーポレート戦略部 未来プロジェクト室の陶山和夫氏の講演「未来をデザインする」から始まった。世界のトヨタと謳われるだけあって、その社内には、常に中長期的な未来に目を向け戦略を立てる部署が存在する。そこでは、未来に起こると考えられる社会現象を様々な視点から書き表した「未来年表」を作成しており、その年表から、車に関連したアイデアの芽を生みだしている。例えば、人工知能を用いた「人を理解する車」や、持続可能なエネルギーを"使う"のではなく"作る"「エネルギーカー」、個人がより自由に移動を行うことが出来る「パーソナルモビリティの車」などの企画・開発を進めている。さらに、子どもたちが車と触れ合う機会を設けることで、車の価値をただの乗り物としてだけではなく機械やアートの教育にまで広げることを考えている。新たなクルマの価値を生みだしていく、トヨタが描く未来図だ。
(2)本当に価値のあるものにだけ時間を費やせる未来に
阿部伸一 氏グーグル合同会社 Google Cloud 日本代表
Google 日本法人で、ビジネス向け製品サービスを展開する Google Cloud 部門の日本における事業活動を統括。Google 入社以前は、アーサーアンダーセンやピープルソフトの日本法人企業にてコンサルティング業務に従事した後、日本オラクル株式会社でグローバルに展開する企業や製造業を所管する営業担当執行役員を務める。
グーグル合同会社 Google Cloud 日本代表の阿部伸一氏は、「人工知能( AI )時代に対応したクラウドの活用」と題した講演の中で、今や無くてはならない Google サービスの未来についてその企業文化も踏まえながら語った。一人一台というモバイルファーストから、ユーザーの行動を予測しアシストする AI ファーストへと変わってきた時代の推移に対して、いかにユーザーの生活に寄り添うことができるかが、イノベーションの鍵だという。このような現状において Google は、これまで社内で培われてきた AI 技術の基盤をあらゆる企業内の情報管理に活用してもらうことによって、よりよい社会の創出を目指している。"常にイノベーションをし続ける"といった文化をもつ Google は、独自の強みを用いて、社会をよりよくするために今後も活躍していくだろう。
(3)未来のまちの在り方について
髙梨雄二郎 氏株式会社竹中工務店 開発計画本部 役員補佐
1982年入社。設計部門にて事務所ビル、ホテル等の設計に携わった後、86年より開発計画本部にて大規模複合開発、集客施設開発、市街地再開発やPFI等、都市計画手法を活用した多くの開発プロジェクトに従事。2013年開発計画本部長(西日本担当)、16年より現職。
日本の建築を代表する企業である株式会社竹中工務店 役員補佐の髙梨雄二郎氏は、「未来の『デザイン』を考える―まちの在り方について―」と題した講演の中で、未来に起こるであろう大きな課題、そしてそれを解決するために提案する"未来のまちの在り方"について語った。少子高齢化やICTの進歩、エネルギー問題などといった課題に対して、竹中工務店はいくつかの未来のまちをデザインする。今回はその中の2つに焦点を当てた。解決策の一つ「サスティナブル・スマートコミュニティ」は、人々の活力・安全・環境に配慮された建物及びまちを指し、建築計画やICTを駆使して人々の"つながり"をテーマにしている。もう一つは「健築~健康空間~」である。これは、人々の交流・身体活動・感性に響かせ、まちのライフサイクル全てに関わることで、人々の健康を促す建物である。まち全体をデザインし、人々の生活までもデザインする竹中工務店だからこそ描くことのできる、未来のかたちである。
(4)銀行の強みを生かした未来のイノベーション
上原高志 氏株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ イノベーション・ラボ所長
産業調査(小売、外食)のセクターアナリストを7年務めた後、企画部署にて銀行合併や取締役会等の運営を担当。その後、法人部門にて電子債権事業を企画・立案し、日本初の事業化に成功。英国への留学後、Startup支援に携わり、2016年1月イノベーション・ラボ初代所長に就任。
「これまでの銀行は、人々に寄り添えば利益が上がった。これからの銀行は、全く新しいイノベーションが必要である」と、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG) イノベーション・ラボ所長の上原高志氏は講演「MUFGのフィンテックへの取組」の中で語った。MUFGでは、この課題に対する組織としてイノベーション・ラボを2016年に創設した。上原氏は、多分野の事業や研究を組み合わせることによって新たなイノベーションを起こす時代がやってきたと感じている。そこで、これまでの金融機関としてだけの銀行ではなく、他の企業にはない"セキュリティ"や"ブロックチェーン"、"ビッグデータ"などという「技」を生かして、複数サービスのプラットホームをつなぐ役割としての銀行を目指すと語った。業種内における、これまでの常識を覆すことによって、MUFGの未来が描かれていくようだ。
(5)独自性を生かして共通価値を創造する
矢倉芳夫 氏ロート製薬株式会社 広報・CSV推進部 副部長
1985年大阪大学卒、同年ロート製薬入社。広告・営業・通販事業の立ち上げ・人事を経て、2016年より現職。現在の関心は、ビブリオバトルとニホンミツバチの生態。
「多様性と画一性のあいだ」と題した講演の中で 「多様性を活かす必要性がますます大事になっているが、多様性か画一性かの二元論ではなく、思考停止にならず喫緊の課題に取り組むことが重要。」と語るのは、ロート製薬株式会社 広報・CSV推進部 副部長である矢倉芳夫氏である。ロートも20世紀は、広くあまねくそして長く使っていただける商品を少品種大量生産にて提供してきたが、その際にも他社が諦めるような課題に挑戦してきた自負がある。しかし21世紀においては、そのスピリットはそのままに、社会課題と向き合うべくCSVという共通価値の創造ということを、多様性を活かし実現する重要性を訴える。奈良県・宇陀市との包括提携や、食のビジネスなどがその例だ。一方でなにもかも多様性という言葉が万能なわけではなく、再生医療の分野では、日本が最先端を走るために、細胞培養を安定かつ高品質にしかもスピーディーに提供できるよう自動細胞培養装置の本格稼働という、ある意味画一的に大量生産できるモノづくりのノウハウを先端医療に活かすという知恵も必要と、現在の挑戦している事業を通じて熱っぽく語る。
ロート製薬を筆頭にした複数の企業や団体が協力して社会課題を解決しようとする試みは、まさに「共創」される未来を描いている。
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今回ご講演いただいた5つの企業は、それぞれ市場も分野も異なる企業である。これらの企業が描く未来図は、それぞれの企業の強みを用いて、人口減少やモノの飽和、IT化、環境問題などといった社会問題を解決していくものであった。本セッションでは、製品開発や技術の共有、新たな価値創造などの様々な切り口から「共創」して、未来の社会をよりよくしていこうとする企業の気概を感じることができた。
(書き手:生命機能研究科/ヒューマンウェアイノベーション博士課程プログラム 一期生 澤田 莉沙)