大阪大学
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INTERVIEW

卒業生インタビュー

2016年12月 5日(月) 公開

株式会社毎日放送 報道局ニュースセンター記者
奥西 亮太さん インタビュー
今までの経験や専門が、まるごと今に生きている

 COデザインセンターで様々に展開される授業や活動。それらに関わった方々が、その後どのように歩みを進めるのか。卒業生の方々にインタビューするシリーズです。
 今回は、奥西亮太さんにお話を伺いました。

(聞き手:水町 衣里/大阪大学COデザインセンター特任助教)

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奥西 亮太さん

株式会社毎日放送 報道局ニュースセンター記者
大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻 博士前期課程 修了
副専攻プログラム「公共圏における科学技術政策(STiPS)」(※1) 修了


自分が関わることで「ちょっと違う」切り口の報道を

水町:
今のお仕事について教えて下さい。

奥西さん:
入社後、丸2年営業部門におり、この6月末に報道部門に異動となりました。僕の仕事は、他の記者が取材してきた原稿や映像素材などを受けて尺調整や編集をし、テロップを発注してオンエアできる映像にする、というものです。担当は「大学」「科学」「医療」で、今の主な守備範囲は実は阪大なんですよ。

水町:
そうなのですね。
仕事をしてみて気付いたこと、感じたこととして、どのようなものがありますか?

奥西さん:
サイエンスに関わる事柄の取材に行った時の他の記者の質問や、社内での情報の扱われ方や切り出し方などを見ていて、違和感を感じる時があります。そこに自分が関わることで、ちょっと違う切り口の報道にしていけるのではないかというのは、なんとなく今感じているところです。

水町:
報道の「ストーリー」を作る、というようなこともされるのですか?

奥西さん:
やります。最近で言うと、ガンの免疫治療薬「オプジーボ」に新しい作用が見つかった、というニュースがありました。この薬はとても価格が高いのですが、効果が出るのは患者さん全体の約3割と限られているので、効くかどうかの見極めが非常に重要です。今回発表された研究成果は、薬が効くかどうかの判断につながる発見だったのですが、取材に行った記者が書いた原稿はただ「新しい機能が見つかった」というものでした。そこでその原稿をガラッと変えて「薬が効くかどうかのマーカーになり得る現象を見つけた」というニュースにしました。そのときは、かなり「こうだと思います」と自分の意見を言いました。今までやってきた経験や専門がまるごと生きた実感がありましたね。

水町:
仕事のなかで、手応えを感じつつあるんですね。

奥西さん:
でも、仕事をしていて、「あ、ここが欠けていたな」という新しい要素が自分の中に出てくることも多いのです。近いうちに、自分に求められている仕事が全体としてどこからどこまでなのか、そのうち今どれくらいができているのか、という見方ができるようになるといいなと思っています。そうすると、自分がうまくいっているかどうか、その手応えがもっとはっきりと自分で分かると思うのです。これからの課題ですね。


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STiPSでどんな議論を誰としたか、今も覚えています

水町:
ご自身の強みはどういうところだと思いますか?

奥西さん:
STiPSというプログラムを通じて、いろいろな人と話をしたおかげで、「ああ、この人はこういう考え方を持っているのだな」と理解するのは他の人よりも早いような気はします。皆、自分の分野のことは分かるけれど、他の分野のことを理解するのに時間がかかったりするのですが。

水町:
それは、取材先の人と話す時のことですね。

奥西さん:
そうですね。

水町:
いろいろな分野のことを知っていると、質問の深みが増したり、いろいろな角度からの質問ができたりしますよね。

奥西さん:
先日、初対面の人と話をしていて、急に政治の話になったのです。でもそれって、実はすごくしんどいことですよね。その人がどういうバックグラウンドの人で、どういう考え方をしているのかが分からないまま話を進めていく。でも、STiPSやCSCD(※2)での経験があったおかげで、ある程度は「この人はこういう考え方の人なのだろうな」と分かり、「恐らくこの話題なら一緒に話せるだろう」ということを選んで話すことができる。

水町:
それは本当は、すごく訓練やセンスが必要なことですね。

奥西さん:
そうですね。取材の場面では、なかなか難しい部分もあるのですが。でも、自分のキャパシティというのは、学生時代にそういった経験をしているか否かで、全然違うのだろうなと思います。

学生時代、STiPSの授業をとっている期間に、CSCDで哲学の話もいろいろ聞かせてもらっていたのです。ほんまさん(※3)のお話を聞いたり、ラボカフェ(※4)に行ったりしていて。ラボカフェでは、今まで自分自身が使っていた論理体系ではない質問の仕方をする人が沢山いたので、そこで「あ、こういうことも聞いていいんだ」という、自分としての安心感のようなものを得たような気がします。

水町:
学生時代は、STiPSというか、CSCDというか、その環境を全部利用した、という感じだったのですね。

奥西さん:
そういう感じでした。環境がとても良かった。どの授業でどの議論をしたかというのは実はあまり覚えていないのですが、どんな議論を誰としたか、は大体覚えています。この人とこの人のぶつかりあいが面白かったとか、このイシューに対するこの理解が面白かったとか。

水町:
一番印象に残っていることは何ですか?

奥西さん:
一番印象に残っていることは、STiPSのサマーキャンプ(※5)の時に、外科医師をしてから京大の大学院に来た方と「医学と科学の根本的な違い」について話をしたことです。「基礎医学」とも「基礎科学」とも呼ばれる分野の研究をしていた自分にとって、あれはとても印象的な出来事でした。その方とは授業で出会ったので、やはり授業でそういう話に至るまでの下ごしらえをしてもらえていたのだな、と思います。授業での議論があったから初めてできた話でした。


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大切なのは専門性を持った上でいろいろな人と話すこと

水町:
是非、後輩へのメッセージをお願いします。

奥西さん:
せっかく大阪大学という総合大学にいるので、いろいろな人と話をしてほしいな、と思います。多様な「場」が提供されていると思うので、積極的に参加してほしいですね。

水町:
そうですよね。いろいろな人の考えに触れるということは確かに大事ですよね。

奥西さん:
一方で、専門性を持っていないと、その場に行っても話すことができない、ということもあります。僕の場合は「基礎バイオサイエンスをやっています。ピュアサイエンスが好きな人間です」というのをまずバックグラウンドとして置いた上で議論に入っていくと、医学と科学についての議論もできたし、工学とピュアサイエンスについての議論もできた。個人的には、「いろいろやりたいです」と言って来た人が一番何もしゃべれなくなるような気がします。自分の立場はここで、この方向からこの問題に向かいます、ということがはっきりしている方が話に入ってからも面白いし、周りに与える影響も大きいと思います。仕事をする上でも、何でも屋になるのではなくて、「自分のバックグラウンドはこれで、その上でこういう仕事がしたいです」という人の方が飛躍できるのではないでしょうか。


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 「働いてみて、情報産業というシステムを社会で回していくにはどうしたらいいのだろうということを真剣に考えるようになった」とおっしゃる奥西さん。また是非、何年後かにお話を伺いたいと思います。

※ 所属、担当はインタビュー(2016年10月)時点のもの。

※1)副専攻プログラム「公共圏における科学技術政策(STiPS)」:
「科学技術の倫理的・法的・社会的問題(ELSI)に関する研究を基盤として公共的関与の活動と分析を行い、学問諸分野間ならびに学問と政策・社会の間を「つなぐ」ことを通じて政策形成に寄与できる人材」の育成を目指すプログラム。自らの専門分野の枠組みを超えて、広く俯瞰的・多角的に科学技術と社会の諸問題・課題を洞察・理解し、かつ公共的関与の活動と分析を行えるような知識とセンス、実践的な能力を備えた人材を育成しています。

※2)CSCD(コミュニケーションデザイン・センター):
2005年4月に大阪大学内に設置された教育研究機関。専門的知識をもつ者ともたない者の間、利害や立場の異なる人々をつなぐコミュニケーションの回路を構想・設計・実践することをミッションに活動していた。2016年6月に活動を終了。

※3)ほんま なほ:
大阪大学COデザインセンター准教授。専門は臨床哲学。コミュニケーション論を軸に、哲学的対話の方法論と実践、「こどもの哲学」、身体・セクシュアリティ論などに取り組む。

※4)ラボカフェ:
京阪中之島線なにわ橋駅構内のコミュニティースペース「アートエリアB1」で大阪大学が開催しているレクチャー&対話イベント。

※5)STiPSのサマーキャンプ:
サマーキャンプは、科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」基盤的研究・人材育成拠点(政策研究大学院大学、東京大学、一橋大学、大阪大学・京都大学、九州大学)の拠点間共同プログラムの一つ。他大学の、そして、専門の異なる学生と共にゲスト講師による講義を受けたり、や問題分析や政策提言等を行うグループワークを行ったりする。STiPSではサマーキャンプ前に実施する事前ワークショップを含めて、「科学技術イノベーション政策総合演習」という科目にしている。

(書き手:森川 優子/大阪大学COデザインセンター特任研究員)

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