「医療と人権:文化人類学の観点から考える」
池田光穂
(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター)
2006年3月28日(火)14時〜17時
大阪市立大学文化交流センター
大阪駅前ビル6F大セミナー室
20世紀末から21世紀初頭の日本では学問ーーとくに人文社会学ーーの社会的関与に関する議論がさかんである。これに関する新領域学問の提唱、例えば臨床哲学や臨床社会学などの「臨床」を関した学問などを通して、それまでの既存知識の現実世界とのあり方との関係を問い直す試みが多く生まれた。それらの試みをひとつの説明原理や解釈で把握できるはずはないが、保健医療社会学やその関連領域では、これらの問題に関する取り組みにおいて、じっさいは老舗の風格をもっていたのではないだろうか。例えば社会医学の領域では古くから「医療と人権」というテーマでおびただしい研究が蓄積されてきたと言える。しかし、「医療と人権」研究は、臨床社会学(あるいは臨床人類学)と同じかというと必ずしもそうとは言えない。私は、これら両者の違いはそれらの学問方法論や依拠する主理論の違いに由来するのではなく、むしろ我々[つまり研究者たち]がおかれている研究の文脈や、その学問的成果をどのようなかたちで社会に「推奨」(recommendation)するのかという研究の実践スタイルの違いに由来するものではないかと考えている。これらの違いをより端的に表現(=解釈)すると、それらは〈生き方〉の違いによるものではないかということだ。このことを私が関わってきた国際医療保健や多文化共生医療などの事例を紹介しつつ考えてみたい。年度末のぎりぎりの研究会での発表になり、関係諸氏には大変ご迷惑をおかけしますが、時期的に新年度も近く、根を詰めた勉強会よりも新学期からの教育や研究にとってリフレッシュできるような問題提起とそれに引き続く多角的討論を主眼とした発表を心がけたいと思います。